5・22「館長雇止め・バックラッシュ裁判」を傍聴して

宮下奈津子 




 5月22日(月)の午後、豊中市のすてっぷ館長であった三井マリ子さんが不当解雇されて提訴している裁判の傍聴に行きました。昨年の3月にこの裁判のことを知ってから傍聴には何回も行っていますが、ようやく証人尋問というヤマ場に入り、全国から支援者が傍聴に駆けつけています。その人数は法廷(大阪地裁809号法廷、45席)に入れる人数を軽く超えているために今回は傍聴券が発行されました。遠くから駆けつけている方も多く、皆さんに法廷の様子を見てもらうために支援者の中で途中で交替をするというやり方をとりました。

 今回傍聴券が発行されたのは、前回(4月17日)の「裁判長の裁判拒否」という事態を受けてのことです。実は前回から証人尋問が始まるはずでした。しかし支援者の傍聴は100人近く、法廷に入れなかった人の中から「中に入れてください、大法廷に変えてください」の声がやまず、裁判長の「傍聴券を発行しますから一度退席してください」の声に法廷の中の人は一人も動かず、という事態を裁判所は収拾できなかったのです。そして自ら退席してしまったのでした。この前代未聞のできごとは、当日ニュースでも報道されました。実は支援者はこのような事態を避けるべく2月に大法廷に変えてくれるよう裁判所に要請文を提出していたのです。しかしそれに対しては理由もなく、却下していたのでした。

 しかし、原告弁護団と裁判所の話し合いの中で、原告本人の尋問の時には大法廷を使えるようにするという裁判所の言葉を得られたので、それまでは809号法廷でということになったのでした。

 この「大法廷問題」は大法廷の使用基準が明らかではないため、今後、弁護団の方で裁判所にさまざまな形で働きかけていただくようです。「司法改革」は今まさにトピック。「開かれた司法」のために、その推移をしっかり見守りたいと思います。

 さて、5月22日の尋問は本郷人権文化部長に対してなされました。豊中市で男女共同参画を担当する部長です。主尋問を被告弁護団が一時間半ほど、その後休憩して反対尋問を原告弁護団が行いました。主尋問は入念な打ち合わせのうえでのことですから、質問に対しての答は、日時や場所などとても明確だったようです。私は反対尋問を傍聴しましたが、全体の印象でいうと「なかなかボロを出さないな」という感じでした。あいまいな答えが多く、また予算要求の手続きについて「異例さ」を尋ねられると、「このようなことは行政ではよくあることである、なぜなら・・」という感じで、自分が話せると思う部分ではきわめて饒舌になります。また、デマ(三井さんが「専業主婦はIQが低い」と言ったと振りまかれた)については、市が直接対応するのではなく、法務局に人権侵害事件として調査を依頼したほうが、はじめからきっちり対応できる、そのほうが解決が早いなどと、もっともらしく答えていました。この点についてはバックラッシュ勢力に腰が引けてしまっているのは明らかですが、それを隠すような饒舌さがここでも目立ちました。

 反対尋問は3人の弁護士によってなされましたが、一番わかりやすかったのは、最後の島尾弁護士の館長採用試験の部分でした。三井さんを「組織変更」の名目で排除しつつ、次期館長をあちこちにお願いしに回り、内定していながら、「採用試験」を儀式として行ったということは、訴状や原告の陳述書から明らかなのですが、「採用試験」について桂現館長が落とされる可能性もあった、もしそうなったら、自分はどうやって責任をとればいいか・・」などど、空々しいうそを繰り返しました。市の部長を勤める人間がそんなリスクを負うことを、行政がやるわけがありません。「採用試験」はすごく厳格にやって、他方、予算要求はずさん、三井さんの常勤館長の可能性を確かめるのは日常会話でよいなどという証言を信じられるわけがないのです。

 それにしてもいつも思うことでありますが、裁判官は3人とも男性。この裁判は一人の不当解雇事件というだけでなく、女性が非常勤館長として雇われ、行政にとって都合が悪くなったら簡単に解雇したという女性差別事件です。女性差別の事案を男性が本当に公正に裁けるのか疑問はどうしてもあります。ただこれは、すぐどうにかなることではないので、私たちは今現在も、その尊厳を踏みつけられている多くの女性の思いを、精一杯裁判官にぶつけていくしかないのかもしれません。

 今後、証人尋問が続きます。焦点は次回7月3日(月)の午後にある、元すてっぷ事務局長の山本瑞枝さんです。三井さんはずしのもっとも核心の部分を握っている人物です。そして10月30日(月)午後に原告本人の尋問が、いよいよ大法廷で行われます。

 すてっぷ館長就任から解雇にいたるまでの具体的経緯がよくわかる原告三井さんの『陳述書』をぜひ読んで、裁判傍聴に来てください。



 館長雇い止め・バックラッシュ裁判
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(出典:「ふきのとう」14号 2006年6月5日発行)



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