女性弁護士 60年で3000人 〜書評『女性弁護士の歩み』

2007/04/24

『女性弁護士の歩み』
『女性弁護士の歩み』明石書店



 『女性弁護士の歩み:3人から3000人へ』(日弁連両性の平等に関する委員会編、明石書店)を拝読しました。昨日、私の起こした裁判の弁護団のお一人、相磯まつ江弁護士からいただきました。

 1940年に女性の弁護士3人が誕生して、それが3000人にまで増えた60年間の軌跡を追っています。女性弁護士が司法に携わるようになって、司法の場がどう変ったかを知ることのできる、とても貴重な本です。

 私は、私が起こした裁判の常任弁護団である寺沢勝子弁護士と渡辺和恵弁護士の名を見つけ、そのページから読み始めました。

 渡辺弁護士のタイトルは「売春防止法をめぐる問題と女性の人権」。大阪の売春業の実態を女性の人権からまとめておられます。渡辺弁護士が、大阪の民間DVシェルター「生野学園」に関わっておられるらしいことは2年半の当裁判の弁護団会議の中でも聞いていました。

 渡辺弁護士のタイトルは「売春防止法をめぐる問題と女性の人権」。大阪の売春業の実態を女性の人権からまとめておられます。渡辺弁護士が、大阪の民間DVシェルター「生野学園」に関わっておられるらしいことは2年半の当裁判の弁護団会議の中でも聞いていました。

 その生野学園は、売春防止法に基づいた大阪府の婦人保護施設であったこと、それを行革の下で大阪府が廃止しようとしていたこと、その廃止の動きをとめる運動を渡辺弁護士が中心になって繰り広げたことを、この本で知りました。

 渡辺弁護士は、生野学園の存続問題にとどまらず、大阪府の売春産業にもメスを入れます。法はあっても「売春助長行為を適切に処罰するという国家意思がない」という日本政府の大問題と向き合うこととなります。買った者を処罰する規定を持つスウェーデンのような国もあるのに、「買春不処罰」の国日本では、売買春の実態調査すらまともに行われていないことにも批判は及びます。

 私の裁判で、バックラッシュ勢力に屈していく行政に対する渡辺弁護士の厳しい姿勢とオーバーラップしました。

 寺沢弁護士は「日本の戦争責任と『従軍慰安婦』問題」と「国際的活動への参加」の2本を共著で書いておられます。いわゆる従軍慰安婦問題は、1990年代初め、日弁連が、韓国やフィリピンなどの戦時性暴力の被害者を日本に招いてその声を直接聞いたことから、社会・政治問題として浮上しました。

 その後、現地での実態調査、調査報告書の発行、国際会議での提言という作業が続きます。同時に、女性弁護士中心の弁護団がつくられ、韓国やフィリピンの慰安婦と称された女性たちが日本政府に対して損害賠償を求める裁判へと発展していきます。

 従軍慰安婦の問題は、女性弁護士の存在なくして提訴は難しかったことがよくわかりました。訴状作成には、被害者から事実を聞かなくてはなりませんが、中国で日本の弁護団団長の男性が挨拶をしたら、その被害女性はがたがたとふるえだしてふるえがとまらなくなってしまったのだそうです。

 日本人男性の声を聞き、PTSDのフラッシュバックを起こしたからでした。「女性であるというだけで、彼女たちの痛みや苦しみを理解できるということはない。しかし、自分の身にひきつけて考えることは女性弁護士のほうがよりやりやすい」というくだりは、本当にそうだと思いました。

 相磯まつ江弁護士は、「私が弁護士になった原点は、『女である』ということだけで一人前に扱われなかった口惜しさに由来する」という強烈な言葉で章を始めています。その口惜しさの中身は語られていませんが、夜間高校、夜間大学で学び弁護士になったという記述から、辛苦の青春時代だっただろうと思わずにはいられません。

 司法試験に合格した彼女は決意します……「いつも弱い立場の女性のために、何か手助けをなさねばならないという何ものかの意思を感じとった。そして、それを成し遂げて人生を終わらせようと覚悟を決めた」。相磯弁護士は、筆者が東京都議会議員だった頃から、ずっと精神的支えになって下さいました。なぜなのだろう、と思ったことがありました。この文章に接し、私が女性の地位向上と男女平等の推進を政策課題の第一に掲げていたからにちがいない、と思いいたりました。

 本書は、両性の平等に関する委員会創立30周年を記念して企画されたものです。代表の小川恭子委員長は、「はじめに」で次のように書いています。

 「いわゆるジェンダーフリー・バッシングが始まり、憲法改正論議の中では、家庭生活における男女平等を定めた憲法24条の見直し論まで登場するなど、時代が逆回りする危険をはらむ現状がある」

 まさに、時機を得た企画であり、一人でも多くの方々に手にとって読んでいただきたい本です。

三井 マリ子

(出典:インターネット新聞)


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