バックラッシュに立ち向かう友へ

三井 マリ子             
豊中市男女共同参画推進センター初代館長
館長雇止め・バックラッシュ裁判原告  

私たちは「同志」

 河野美代子さんと私は、同じ敵と戦う友です。

 河野さんは、名誉毀損した筆者と出版社を提訴しました。筆者は、河野さんが共同代表を務める団体「男女共同参画を考える会ひろしま」が開いた講演会「子どもの人権を尊重する子育て」での発言の一部をねじ曲げて書き、誹謗中傷しました。そこには、男女平等に根ざした性教育を「ゆきすぎた過激な性教育」などとして排斥していく、いわゆるバックラッシュの動きがありました。

 私は、豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の館長をしていて、陰湿な方法で解雇されて、損害賠償の民事訴訟を起こしました。同市が私を排除した背景には、真の男女平等を嫌う勢力、すなわちバックラッシュ派の存在がありました。

 つまり私たち二人は、バックラッシュの卑劣な攻撃に立ち向かう同志です。


バックラッシュの手口

 バックラッシュとは、英語 Backlash のカタカナ表記です。この言葉は、アメリカにおける女性解放運動への組織的政治的攻撃をまとめたベストセラー『バックラッシュ』(スーザン・ファルーディ著、1991)によって世界に広まりました。今では、日本でも、男女平等推進の流れを止めようとする反動的傾向を指す言葉として使われています。

 バックラッシュ勢力は、「女は女らしくあれ、男は男らしくあれ」とする旧来の性役割分担に固執します。社会的文化的に作り出された男女の特性を、あたかも生まれながらに決まっている特性であるかのように強調します。そして、その特性の名の下に、社会に厳然と存在する男女差別を覆い隠そうとするのです。

 その攻撃は、自分たちに都合のいい言葉だけを抜き出し、『捻じ曲げ』や『すり替え』を駆使して、噂、チラシ、あるいはメディアに乗せて、広く流布するのです。

 特定出版社、宗教団体、研究団体、市民の会などとつながりを持ち、教育現場や行政機関などに攻撃的に介入してくるのです。

 バックラッシュの動きは、男女共同参画推進社会基本法が成立した1999年あたりから目立ち始めました。国の法律にのっとって、全国の自治体が男女平等を達成するための条例を制定するようになったため、その条例を骨抜きにし、男女平等に逆行するような条例を作らせようとするのです。

 条例制定をめぐる攻防ですから、議会が主戦場になります。


雇止めという名の解雇

 私は、2000年秋、大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」開設にあたり、全国公募で館長に選ばれました。「すてっぷ」での仕事は、毎年、理事会・評議員会で評価されてきました。

 ところが突如、2003年度末に雇止め(やといどめ)に合いました。男女共同参画推進条例が制定されたので、『すてっぷ』の組織体制を強化するため、非常勤館長ポストを廃止して館長は常勤にする、と言い出したのです。私のポストが消滅するのですから、地位保全の訴えは意味をなさなくなります。

 この背後には、条例制定に反対するバックラッシュ勢力の存在がありました。ここに詳細は書けませんが、豊中市議会の議事録には、この勢力の思想と手口が存分に残されています。ファイトバックの会(当裁判を支援する会)のホームページの裁判所提出文書にもまとめられています。
     http://fightback.fem.jp/05_9_27jynbisyomen.pdf


首切り作業は秘密裏に

 私は非常勤という身分ではありましたが、組織のトップです。しかし、首切り作業は、豊中市管理職から派遣された事務局長を中心に、徹底して私の知らないところで進められました。

 私は退任を表明したことなど一度もないのに、豊中市は「三井は辞めるといっている」との嘘をでっち上げ、後任館長探しに奔走し、一人を内定します(当初はこんな陰湿なことを豊中市がしているとは知りませんでした)。追い込まれた私は、最後の手段として、常勤館長をやる意思があることを表明します。そこで市はしかたなく、形だけの採用試験を行います。でも、もちろん私は不合格です。

 しかし、こんな理不尽な使い捨てをされて泣き寝入りしたのでは、女がすたります。そこで、2004年12月17日、豊中市と「とよなか男女共同参画推進財団」を相手に損害賠償の訴訟を起こしました。


捏造して広める

 さて、豊中市の向こう側にいるバックラッシュ勢力のやったことが、いかに卑劣かをわかっていただきたいので、実例をあげます。

 この勢力は、チラシに、「ジェンダーフリーは、女性の敵だ!」「フリーセックスを奨励し、性秩序を破壊する」などというデマを書き、その同じビラに「館長三井マリ子さんは、男女共同参画社会についての市民の質問に答えない!逃げている!」などと、逃げてもいない私のことを、逃げているかのように攻撃するのです。

 また、館長の講演会に一般市民を装って参加し、講演内容とはまったく関係のないプライバシーに関わる質問をしたり、「すてっぷ」受付で、名前を名乗らず私に難癖をつけたり、などいろいろです。 バックラッシュ攻撃でさかんに使われる「ジェンダーフリー」という表現は、日本で基本法が成立した前後から、「性にかかわらず」という意味で使われるようになった新語です。英語を専門とする私自身は、誤解を招きかねないと考えて、一回も使ったことがありません。

 しかし、行政当局や学者を中心に使用する人がしだいに増えました。それを、バックラッシュ派は突いてきました。「ジェンダーフリーはセックスフリーだ」と勝手にねじまげて解釈し、さらには、「セックスフリーは性秩序の破壊だ、家庭崩壊だ」というのです。そして、とどのつまり、三井はジェンダーフリー論者だから家庭崩壊主義者だ、などと思わせるわけです。

 私への最も卑劣な誹謗中傷は、「三井館長は、講演会で、専業主婦は知能指数が低く、専業主婦しかできない、と言った」などという嘘を捏造して広めたことです。この根も葉もない噂はどんな経路で広がったか私には知る由もありませんが、ある日、市議会副議長の口から市の幹部職員に知らされます。同時に、バックラッシュ勢力の作るホームページにも掲載されます。さらに、『別冊宝島 男女平等バカ』という雑誌にも書かれ、それが全国の店頭に並んだのです。同誌には、北川悟司豊中市議が語った台詞として、私の「専業主婦・・・」発言が市議会でも問題になったかのごとく書かれているのです。

 もちろん、議会で問題になったことなど一切ないことは、議事録からも市幹部答弁からも証明できます。でも、嘘の噂はどんどん広まり、私には手の打ちようがありません。裁判で勝訴することが最大の解決策だと思っています。


多くの女子生徒が河野さんから学んだこと

 私は、高校教員をしていた時代から、著作や報道を通じて河野さんの考えや実践をよく知っていました。生徒たちにもその著作を紹介しました。妊娠出産という結果を引き受けることになる少女たちに向かって産婦人科医・河野さんが語る性教育は、女性の生きかたそのものを教えることでもありました。

 どれだけ多くの女子生徒たちが、『自分の人生は自分自身で決める』という人間の大原則の大切さを、河野さんから学んだことでしょう。

 バックラッシュ攻撃によって受けた精神的苦痛を跳ね返そうとする河野さんは、頼もしい同志です。

 がんばりましょうね!


(出典:『ニュースレター No.10』(編集・発行:性教育バッシング広島裁判を支援する会、2007.6.15.))

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