陳述書

2007年12月11日
樋口典子

1.私と三井マリ子さんとの出会い
 1999年新春、仙台の男女平等の運動をしているなかまから、ノルウェー左派社会党の党首、クリスティン・ハルヴォルセンさんを仙台にお呼びして講演会をしたいので、企画を一緒にしたいとの声がけがありました。

 その際、ノルウェーからクリスティンさんを招聘なさったのが三井マリ子さんでした。仙台のほか、日本各地数ヶ所でクリスティンさんの講演会を行うとのことでしたので、仙台では集まったメンバーで「クリスティンさんを招く会」を結成しました。三井さんのアドバイスを受け、基金を集めて同年5月6日(木)仙台市の男女共同参画センターであるエル・パーク仙台で「ノルウェー政界、女性大躍進のヒミツ〜統一地方選を超えて 東北の女の選択〜」という講演会ならびにパネルディスカッションを開きました。

 ノルウェー王国大使館も共催したこの会は、東北各地から参加があり、会場はいっぱいの参加者で埋まり、マスコミにも取り上げられ、大成功をおさめました。三井マリ子さんも「ノルウェー政界女性大躍進の種明かし」と題し、短いスピーチをしました。この講演会は三井さんの尽力がなければ実現できなかったことです。これをきっかけに、私たちをはじめ仙台の女性たちとノルウェーの架け橋ができたのです。

 私自身は三井さんが東京都議会議員をなさっていたころから、仙台に三井さんがいらっしゃると講演会を聞きに行ったりして、三井さんを存じておりましたが、クリスティン・ハルヴォルセンさんの講演会を境にお互いに男女平等推進の立場でいろいろとご指導をいただいたり、情報交換をする関係になりました。

2 クリスティンさんの講演会の成功を経て
 その後、私もメンバーの一人である「クリスティンさんを招く会」は「ノルウェーに学ぶ会」と名称を変え、男女平等の一番進んでいる国、ノルウェーを学び日本も男女平等にしたいと仙台を中心に活動を続けています。

 クリスティンさんの講演会の後、私たちはノルウェーに調査交流に行きたいとの思いがつのり、仙台市の杜の都女性会議の助成を受け、2000年11月にノルウェーの女性事情を視察するため8日間3カ所の都市に調査・交流に行きました。事前に三井さんから研修を受け、ノルウェー王国大使館へつないでいただき、大使館でも事前研修をいたしました。さらに事後の杜の都女性会議での報告を行い、また「「平等」の先の平等〜ノルウェーからの熱いエール〜」視察報告書を発行しました。報告書ができたと同様のタイミングで「すてっぷ」で「北欧の風をあなたに」シリーズが開催されました。それを知った私たちも報告書を携えて講座を聞きに行き、すてっぷで皆さんと交流をいたしました。

 さらに、三井さんのご紹介でノルウェー国立女性博物館の理事のボーディル・クローグさんを仙台にお呼びし、2002年には財団法人せんだい男女共同参画財団の助成を受け「北欧からのやさしい風」〜子育て・仕事・社会:ノルウェーのサポートシステム〜講演会を開催。2003年にはノルウェー国立女性博物館の館長、カーリさんをお呼びし、ノルウェーの夕べ〜ミニセミナーと交流会の開催をいたしました。2004年にはボーディルさんから紹介された「リーダー/政治家をめざすすべての女性に贈るWomen can do it!」をせんだい男女共同参画財団の助成を受け翻訳、冊子として出版をしました。これは、ノルウェー労働党女性局が、女性の発言力や説得力を養うためにつくった研修用マニュアル本です。

3 三井さんが仙台にもたらした力
 冊子「リーダー/政治家をめざすすべての女性に贈るWomen can do it!」の中に掲載されているワークショップは「ノルウェーに学ぶ会」のメンバーで現在まで仙台を中心にヌエックなどで通算12回行っております。せんだい男女共同参画財団が主催するジェンダー論講座にも取り入れられ、この間多くの皆さんに受講され、女性たちがエンパワーメントされる際の重要な教科書となっています。

 さらに、私たちはノルウェー女性博物館に行った際、グロ・ハーレム・ブルントラントさん(ノルウェー初の女性首相)をモチーフにしたスピーチテーブル「グロ」を目にして、ぜひ仙台にこのスピーチテーブルがほしい。との思いを共有しました。仙台の女性たちが募金をし、2005年11月に世界で3番目となるスピーチテーブル「グロ」をエル・パーク仙台に寄託することができました。

 また私事ですが、1999年から三井さんが活動している「女性と政治キャンペーン」にも参加をしておりました。この運動などにも啓発され、四半世紀勤務した仙台市役所を辞し、2007年の4月に仙台市議会議員に立候補をいたしました。結果は最下位当選者に216票及ばなかったものの、多くの方に支持をされ、私自身の自信と次回への足がかりとなったものでした。
 このように、三井さんが私にはもちろん仙台にもたらした力は仙台の男女平等の原動力となったといっても過言ではないと思います。三井さんは男女平等の話のみならず、家庭科教育や労働問題などでも精力的に仙台に講演にいらしております。三井さんは男女平等を推進する立場を担うに十分すぎる力とそのネットワークを持っております。その三井さんを「すてっぷ」がなぜ雇い止めにしたか腑に落ちません。

4 仙台市の外郭団体職員、雇い止め阻止の取り組み
 私は現在、自治労仙台市職員労働組合副執行委員長として働いております。自治労の運動方針でもある外郭、非常勤職員の労働条件向上のために、組合員の皆さんとともに活動をしております。

 仙台市の外郭団体の労働組合が、嘱託職員の3年雇い止めを阻止した取り組みを紹介します。以下は仙台市スポーツ振興事業団職員労働組合議案書から作成しました。三井さんの雇い止め事件に参考にしていただければ幸いです。

 2005年10月、仙台市スポーツ振興事業団職員労働組合が結成されました。仙台市の外郭団体の労働組合であり、2004年に採用されて3年目の嘱託職員(1年雇用で、繰り返し雇用されていた職員)が数名雇い止めされたにもかかわらず、同様の職員が新規採用される事態がおこったのです。そこで雇い止めされた仲間を見て忍びなく思った嘱託職員たちが団結し、組合を作り交渉をしました。

 労働組合の要求は「嘱託職員の3年を限度とする更新を止め、非常勤、常勤職員について繰り返し雇用となっている実態から、雇用期間の不合理な取り扱いを止め、期間の定めのない雇用とすること」など9項目であり、交渉ですべての項目において今後協議をするとの回答を得ました。

 事務折衝の中で、雇い止めを実施した理由や法的根拠について明らかにしていくことにしました。結果、実施理由は「指定管理者制度の導入により、これから先、受託施設が減少したときのことを考えて行った」法的根拠は「仙台市の嘱託職員の3年に準じたもの。一回でも更新すれば期待権が発生することや、1年雇用でも繰り返し雇用すれば定めのないものとみなされる等は知らなかった。」との説明があり、法的根拠に基づいて行ったものではないことが分かりました。事務折衝の中で財団は法律的に問題があることを認識しました。

 さらに組合は要求書で「嘱託職員の雇用期間を最長3年とすることを止め、更新回数制限を行わず反復更新とし、期間の定めのない雇用とすること」とし、回答団交で「現に雇用している常勤職員(体育指導員を除く)及び非常勤嘱託職員について、更新回数を制限する規定を改めたい」という更新3年打ち切り(雇い止め宣告)の撤回を勝ち取りました。これに基づき「平成17年4月現在、仙台市スポーツ振興事業団に在職する非常勤嘱託職員(体育指導員を除く)及び非常勤嘱託職員について、更新2回を限度とする制限を廃止し、引き続き雇用契約を行う制度とする。(以下略)」の確認書を取り交わしました。なお「平成18年度と平成19年度に採用した常勤嘱託職員については3年間の有期雇用契約とする。なお3年後の契約更新については雇用状況等を鑑み双方協議するものとする。」となりましたが、雇い止めを撤回させたことは大きな力になりました。

5 外郭団体と指定管理者制度
 仙台市でも40を越える外郭団体があります。その多くは、早くの時期から指定管理者制度が取り入れられており、職員は雇用不安や労働条件の低下に喘いでいる毎日です。外郭団体は本来、地方公務員法の範疇でなく一般の会社と同じように労働基準法適用である独立した組織です。にもかかわらず、人事から給与に至るまで仙台市の「ひも付き」となっており、労働条件向上のための交渉の場においても外郭団体当局から「自分たちには決定する権限がないから」と何回も言われます。また民でできるものは民で、指定管理者の選定基準は安価であることが大きなファクターという規制緩和により、人件費を安くし、流れとしては常勤から非常勤へとなっています。このことは働く人の労働条件の低下や外郭団体の組織としての弱体化になっていくことであると思います。

 ひるがえって「すてっぷ」の三井さん雇い止め事案を見た場合、今まで三井さんという非常勤で賃金が決して高いとはいえない館長であったにもかかわらず、また三井さんが評価されこそすれ就業規則や管理運営上の趣旨に抵触してもいなかったのに、さらに費用対効果を考えても、あえて給与が高い常勤の館長に換えたというのは、恣意的なものがあったと疑わざるを得ません。

6 バックラッシュと非正規の切捨てにNO!を
 「すてっぷ」での三井マリ子さんの雇い止め事案は、全国各地で行われている、いわゆるバックラッシュ派議員による市当局の行政方針への不当関与と考えざるを得ません。いままで条例や方針、計画によって男女共同参画を推進していたものが、いとも簡単にSTOPされたり、変節されてしまっているのです。行政には大局的な立場で男女共同参画を推進する、そしてそれを担う人材を大切にする責務があるにも関わらず、男女共同参画を高く評価をする市民を見ないどころかないがしろにし、大きな声の議員勢力になびいてしまう傾向に大きな疑問を抱きます。

 そして、もう一つはいつでも首を切られるという非常勤という働き方を公務の職場に取り入れたマイナスは大きいと考えます。今、格差社会が問題といわれ数々の弊害がでています。この弊害をなくすために公の職場は率先して均等待遇を取り入れなければなりません。さらに、公の業務は10年20年、50年の見通しをもってすすめていかなければならないもの。それには、雇用の安定がなければ、腰を落ち着けて仕事ができるわけはありません。

 三井さんこそ「すてっぷ」に、日本の男女平等を推進する場に必要な人なのです。先見の明で初代の館長として三井さんを採用した当時の豊中市当局の決定を重く受け止め、この雇い止めは不当のものであると認めてください。

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