陳述書

2007年11月8日

勝又みずえ

岩国市の女性政策からみた「すてっぷ」問題

 私は山口県岩国市で農業を営む勝又みずえと申すものでございます。原告元豊中市女性センター「すてっぷ」館長三井マリ子さんの裁判にあたり、地元山口県、岩国市の女性センターの実情を通して、陳述をさせていただくものです。

 日本では女性待望の男女共同参画社会基本法が、1999年6月に制定されました。その第9条には地方公共団体の責務として、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と定めています。

 この法律に従い、山口県ではいちはやく2000年7月に、山口県男女共同参画推進条例が成立し、10月より施行されました。実はこの県条例施行以前の1975年の国際婦人年のころより、国際的に男女平等社会実現への熱望が本格化しておりました。山口県においても、国際婦人年の影響で、1975年に山口県女性問題対策審議会がつくられ、いろんな施策の継続として、1998年3月よりは5年計画で、『やまぐち男女共同参画プラン』が執行されていたのです。

 このプランにおいて、男女共同参画推進のための拠点整備機能が、重点目標のひとつとして、位置づけられています。このプランは2002年で一旦終了し、しばらく中断した後、2006年再改正され、現在進行中です。しかし、2007年11月現在、重点目標である拠点整備は実現しておりません。それどころか、県財政難の折、以前よりもさらにいっそう拠点整備の可能性が遠のいたといえそうです。

 山口県において最初と言える『よりよい社会をめざす山口県婦人行動計画』が策定されたのは1979年です。以来約30年間、山口県は、拠点整備を重点目標とすると字で明記してはいても、全く実行する気持ちはないといえそうです。

 また、在住しています岩国市の場合、2003年4月に岩国市男女共同参画推進条例が、制定されました。条例制定以前から、「いわくに男女共同参画プラン」が2000年から、2004年までの5年計画で執行されていましたが、2006年の市町村合併の混乱もあり、その後のプランそのものは、2007年現在、空白、中断しているところです。

 この岩国市も山口県と同じく、男女共同参画推進のための拠点となる女性センターの設置を、重点目標の一つと明記してあるのです。岩国市女性問題対策審議会が設置されたのは、1988年ですから、やはり20年近く経っていても、財政難の折、実現どころか、全く女性センター整備の見通しさえつかないというのが実情です

 男女共同参画社会の実現は、21世紀の最重要課題だと基本法では唱えています。しかし地方自治体の現場では、全くその努力をしていない。つまり地方自治体は、その責任を果していないのです。これが、多くの地方自治体の男女共同参画行政なのです。

 私は、原告三井マリ子さんと、1995年の北京国際女性会議で出会って以来10年以上のお付き合いです。これまで、三井さんの男女平等に賭ける献身的な活動を、時にはともに一緒に行い、時には彼女の本や講演で見聞してきました。

 その三井さんが2000年9月、豊中市の女性センター「すてっぷ」の館長に難関を突破して選ばれたと知り、大変うれしく思いました。そして、三井さんを選んだ、豊中市の姿勢に感動すらいたしました。

 2001年7月、友と二人で、「すてっぷ」を見学に行き、三井さんの館長ぶりを、この目で確かめ、女性として頼もしく、誇らしく思ったものです。豊中駅前に建てられた最新の施設・設備がある「すてっぷ」で、三井さんによる豊かな指導の下、女性の人材育成が行われる。山口にも、こうした女性センターができたらいいものだと、そのモデルのように思えました。さらに、この「すてっぷ」から次期世代を担う女性の人材が、必ずや輩出するであろうと確信したものです。

 しかし、喜んだのもつかの間、1999年の男女共同参画社会基本法成立を契機として、全国各地で、バックラッシュの嵐が吹き荒れてきました。私の住む山口県の宇部市では、市議会に提出された男女共同参画条例案の内容が、バックラッシュ議員らの圧力から、審議会で用意してきた条例案とは、異なった質のものに変えられ、それが議会を通ってしまったのです。女性らしさ、男性らしさを強調するような文言が入り、何のための条例かわからなくなってしまったのです。

 そうした中、豊中市でも2001年夏ごろから市議会議員による、議会発言を通して、三井さんや「すてっぷ」に対する攻撃が始り、ついに2004年3月、三井館長の雇止めという事態に追い込まれてしまったのです。

 男女共同参画社会にふさわしい女性を育成するべきと、新設された理想的な女性センター「すてっぷ」において、皮肉にも、男性権力者による女性いじめの末、女性の労働権が奪われるという最悪の事態が発生してしまったのです。これは、絶対見過ごせません。

 全国の注目をあびた豊中市女性センター「すてっぷ」での館長雇止めという、このたびの事態は、期待していただけに、私を絶望のふちに落としてしまいました。男女共同参画社会をつくることは行政の責務です。その行政がなした悪質非道な行為を、決して許してはいけないと思います。

 私は、この三井さんの事件を通して、山口県、岩国市ともに、女性センター機能の新設を無視しているかのような行政に対して、いっそう鋭い監視を続けなければならないと思うようになりました。

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