陳述書

2007年11月11日
            木村 昭子

 私は、高知市にある「こうち女性総合センター ソ―レ」を管理運営する「こうち男女共同参画社会づくり財団」の評議員をしている。私は長い間、全国的な女性運動、地元の女性センターを拠点とする女性運動にかかわってきた。その関係から、原告は、私の長年の友人である。また、2001年夏「ノルウェー男女共同参画ツアー」(三井マリ子企画、財団法人とよなか男女共同参画財団など後援)に参加し、原告とともに北欧の高度な社会福祉と男女平等を視察した。このような経験から、以下に陳述する。

 こうち女性総合センター ソーレは全国に類を見ない、高知県・高知市両者による合同設置のセンターである。1999年、「男女共同参画社会基本法」の誕生と時を同じくして開設され、高知県・高知市が合同で出資した「こうち男女共同参画社会づくり財団」が運営主体となり、館長(派遣県職員)、事務局長(派遣市職員)、正職員2名(県市より派遣各1名)、非常勤職員6名で運営している。

 館長始め派遣職員は自ら望んでのセンター職員就業ではなく、あくまで人事異動によるものであり、男女共同参画の実現に熱い思いと、高い識見と、豊かな経験とを持って“すてっぷ”館長に応募した三井さんの場合とは全く異なる。更に、彼女(彼)たちは、規定どおり3年ほどで交代する。開館以来のセンターの設立趣旨を引き継ぎ、使命感を持って事業を運営しているのは1年契約の非常勤職員達である。

 派遣職員たちよりはるかに勤続年数の長い彼女たち(非常勤職員は全員女性)は業務内容に精通し、正職員同様、時にはそれ以上の責任を担っているにもかかわらず、何年勤続しても、豊かな経験を積んでも、定期昇給も賞与もない。

 昨年から指定管理者制度が導入された。それにより、当初3年間の管理者の指定を受けた財団だが、年間運営経費は15%削減、一番削りやすい人件費を縮小するために派遣職員数を削減、非常勤職員達の負担は以前に増して大きくなっている。

 幸いこれまで雇止めされた職員はいないが、指定管理者制度により非常勤職員の不安定身分は更にその度合いを増した。民間への移行が行政側の方針といわれ、3年後の再指定があるかどうかは全く確定できない。もし、民間事業者が指定管理者になった場合、派遣職員は本庁へ戻ればいいだけだが、非常勤職員の身分保障はない。職員の雇用継続が管理者指定の条件であったとしても、経営効率を求める民間事業者が考えるのは人件費の削減であろう。給料の切り下げを呑まない職員は切り捨てられることになる恐れがある。

 非常勤の女性の不安定雇用によって運営が支えられている女性センターとは一体何なのだろうか? ナショナルセンターとしてのヌエックをはじめ、全国各地のセンターがまったく同じ構図であることに、「男女共同参画社会の実現は21世紀のわが国社会を決定する最重要課題」と明記された男女共同参画社会基本法の精神が瀕死の状況にあることを感じている。

 女性センターに限らず、高知県の非常勤職員は高知県行政改革プランにより、2006年から3年間でおよそ100名以上の削減が打ち出され、既に100名近くが職を失なっている。非常勤職員の中には1年契約を更新し続け、数年から10年以上継続勤務している職員もいるが、何年勤続しても年収は約180万円、もちろん賞与もない。雇用更新に対する不安を常に抱えての生活を強いられながら、正職員同様の基幹業務を担ってきたにも拘らず、その貢献への見返りは雇用の打ち切り、という非情な現実である。

 最後に、三井マリ子さんとともに視察したノルウェーの有期雇用労働者の事情について述べたい。国連女性計画のGEM(ジェンダー・エンパワメント・メジャー)で、ほぼ毎年世界第1位であり、女性の地位がきわめて高い。最も重要な点は、女性が男性と同様経済力を持てるような政策を国ぐるみで進めてきたことだ。

 調査によると、ノルウェーの労働の基本は無期雇用(日本でいう正職員、正社員)であり、有期雇用は例外的とみなされている。有期雇用は、仕事の性質上有期が慣行となっている特別な職務やプロジェクトの運行にのみ認められている。訓練生、スポーツ競技者、欠勤者の臨時代替要員などだ。だから、女性センターのように長期的継続的な職務の職員が有期ではありえず、ありえるとしたら短期で終了すべき特別な研究プロジェクトに携わる場合である。

 特に日本と異なるのは、連続して4年以上更新されて働く有期雇用者は、正規雇用者と全く同一の解雇制限を受けるようになる点だ。さらに、有期雇用者には、空いている無期雇用職が優先的に与えられる(能力や適性は当然条件であるが)。

 日本の女性の経済力は世界で最も低い部類に属するが、女性がほとんどを占める非常勤職員の地位の向上なしには、いつまでたっても低いままであろう。その意味からも、非常勤の雇止め問題に一石を投じたこの裁判に注目し、原告を支えていきたい。

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