陳述書

2007年12月13日

北村三津子(医療福祉専門学校・非常勤講師)


私は、2007年秋まで東京都にある特別養護老人ホームで働く正規職員主任寮母でした。又、介護現場ではトップの人間でした。私はそこで、8年間働き、つぶさに非常勤職員が支えている介護の現場を見てきました。その経験を踏まえ、三井マリ子『すてっぷ』非常勤館長雇止め裁判について陳述させていただきます。

8年前、特別養護老人ホーム立ち上げ時のケアワーカー30名は、全員正規職員でした。しかし職員が退職するたびに補充する職員の身分は、非常勤・パート・派遣でした。2007年11月5日(私自身の退職日)時点では、特養職員30名の半数15名が非常勤待遇となりました。

正規職員は、そもそも早番・遅番・夜勤など勤務時間不規則の上、それに加えて非常勤の労働時間(正規より40分から90分短縮)をカバーしなければならないことから、よりハードワーク、よりオーバーワークを強いられています。夜勤17時から9時30分のはずですが、11時30分まで仕事です。早番7時から15時40分のはずですが、17時まで超過勤務。それが実態です。2時間のオーバーワークを強いられていますが、そうしなければ、仕事が廻っていかない現実だからです。重労働のわりに時給が安く待遇が悪い。それが大きな理由となって介護・福祉の現場では、就職しても短期間で退職する人が数多く見られます。

一方、非常勤の職員は、正規職員と同じようにハードワークをこなしています。にも関わらずさらに賃金も低く、昇給もなく福利厚生・ボーナスもいっさいありません。その上、法律上は1年契約の使い捨て同様の扱いです。正規職員と同じ仕事をしているのに、この差別待遇はあまりにもひどいと思います。これでは、同じ職場にいながら非常勤と正規の人間関係がギスギスして当たり前です。

介護の現場だけではありません。医療・福祉・男女共同参画センターなどでの働く男女比率は女性が多く、しかも非常勤で働く人が圧倒的です。

さて、私は、以上のような人手不足で有給休暇を取りづらい中、夜勤明けの夜に、東京から大阪まで深夜バスを利用して第一審裁判を何回も傍聴してきました。この裁判は、論理的には、原告側が完全勝利判決のところ、判決は敗訴でした。説明と同意は、医療・介護・福祉の現場では、当然のことです。豊中市は、ひとりの人間の労働権を奪い去るという行為、すなわち三井マリ子さん館長雇い止めにあたり、豊中市には、その説明責任があります。嘘をついたり、情報を意図的に秘匿したりせず(判決は、この点は認めている)、きちんと三井さんに説明をして同意も求めて当然だと私は思います。

又、私自身のポストを穴埋めするかのように、一年契約非常勤職員が正規職員になり主任になりました。彼女はパートで入職。2年前に非常勤職員に。真面目でしっかり仕事をします。その努力が報われたのだと思います。私自身は喜んでおります。そのことを考えれば、豊中市では、組織変更を、非常勤館長を常勤にするのであれば、三井マリ子さんを常勤館長にすることが道理にかなっていると私は思います。

さて、日本では、数年前に既婚女性の働く割合が50%を超えました。DV(ドメスティックバイオレンス・夫が妻に振るう暴力・恋人間の暴力)の90%は、専業主婦に対して行われているとのことです。そして、DVのあるところに児童虐待があると聞いております。日本の少子高齢化社会問題解決策では、男女共同参画社会の枠組みで解決しないことには、どうすることも出来ないことが解っています。つまり、「男女共同参画社会をつくることは、最重要課題」(男女共同参画社会基本法)なのです。

その屋台骨である男女共同参画センター、すなわち豊中市男女共同参画センター『すてっぷ』で、非常勤館長三井マリ子さんは雇止めされました。三井さんは、説明と同意というプロセスをとられないままの雇止めは、非常勤職であろうと違法ではないか、と三井さんは司法に訴えました。同時に女性の人権を確立する女性センターで、このような労働権剥奪は許されないとも主張しています。つまり、この裁判は、私が働いていた介護現場の労働環境の向上、とりわけ非常勤職員の不安定雇用の改善にもつながる重要なテーマを持っているのです。ですから私は三井さん個人の問題ではないと考えております。お年寄り・こども・女性を大切にし、働く人を大切にする。それらのことを真に問うている裁判であると考えます。

一審不当判決を出した、山田陽三裁判長に強く抗議するとともに、大阪高裁において、人道に反しない正確な審理を要望するものです。大阪高裁二審においては、これらのことを踏まえて、誠実な審理を切にお願いするものです。

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