陳述書

2007年10月7日
小松 満貴子

 私は豊中市女性センター(現在の財団法人とよなか男女共同参画推進センター=すてっぷ)基本構想検討委員会(原審平成16年(ヮ)第14236号損害賠償請求事件における2005年7月4日付け原告準備書面参照))の座長としてこのセンターのあり方を提言してきた立場から同センター館長の雇用契約について見解を述べさせて頂きます。尚私は1983年4月から大学の女性学関連講座を担当し、女性の自立とジェンダー平等政策に多大の関心をもって調査・研究を続けているため、いくつかの自治体のジェンダー平等政策に参与し、豊中市の関連政策の審議会等の委員として関連計画策定にも関わってまいりました。

豊中市女性センター基本構想検討委員会の報告
 豊中市には「すてっぷ」の設置以前の女性政策関連施設として、文部省社会教育系の「婦人会館」と労働省系の「働く婦人の家」がありましたが、私は平成元年(1989年)ごろから後者の運営委員会の一員でした。そのため豊中市女性センター建設検討プロジェクト・チームに入り、このチームは日本各地の先行同種施設の訪問調査を行い、平成6年(1994年)には調査研究報告書を出しております。
 そこにあるセンターのスタッフのあり方についての記述は以下の通りです。
 「女性センターの運営・管理を担うスタッフは、女性問題の解決に向けて活動する市民をサポートしていく重要な役割を有するので、女性問題への理解ある職員の配置が望まれる。また利用者である市民に対し、職員が総合的な力を発揮するため、管理部門・調整部門・事業部門の各部門が縦割り組織に応じた仕事をするのではなく、部門間の連絡会議などを設け、相互に連携・協力しながら事業をすすめていく必要がある。スタッフの確保にあたっては、専門的な力を有するとともに女性問題の解決に意欲ある人材という点に留意する。女性の社会的「参加」「参画」という観点から、積極的に女性の登用を図っていくことは、センターが男女平等社会のモデルとなるためにも重要である。なお、女性問題に関わる多様な市民ニーズにこたえるために、センターのスタッフは常勤複数配置を原則とする。」

なぜセンターの職員は常勤でなければならないのか
 申すまでもなく同センターの設置目的は構想の提言にあるとおり、@男女の自立と対等な参加・参画の推進 A男女協同社会へ向けた出会いの場 B女性の自立支援 C関連事業の総合化 D市民参加・参画の拠点であります。
 なかでも女性の経済的自立を支援することは欠かすことの出来ない事業というべきです。それには館長をはじめこの組織で働く職員が非常勤・非正規雇用で経済的自立もむずかしい状態では、まさに「羊頭を掲げて狗肉を売る」がごとくになってしまします。
 また事業の専門性を維持し、市民参加の調整のためには短期の非常勤雇用では仕事の質の向上をはかることは困難です。職員の専門性の向上のためには研修も必要ですが、これが短期で離職しなければならないようでは無駄な投資になってしまうのです。それゆえ職員は常勤継続雇用が望まれます。

「すてっぷ」が遵守しなければならない労働法
 周知のように「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下パートタイム労働法)」は平成5年に施行され、度重なる改正に伴い同指針の改正も逐次ありました。
 指針は本来法が規定している内容が浸透するよう民間企業の事業主や末端の行政機関、国民一般の理解を助けるために策定されるものです。パートタイム労働法の場合通常の労働者との均衡待遇は制定の至上目的であり、通常の労働者への転換推進もはじめから意図されていました。
 しかしそれが必ずしも遵守されていないので、平成18年12月26日労働政策審議会雇用均等分科会報告ではわざわざパートタイム労働法改正に当たって「事業主は、パートタイム労働者に対し、通常の労働者への転換の推進に向けた措置を講じなければならないとすることが適当である」と記されています。
 そして最近の指針では、パートタイム労働者に対して通常の労働者への転換の措置を促すよう努めるものとし、同時に雇用条件の変更等は労使の話合いをするよう規定しています。つまり使用者には説明責任があり、労働者にはそれを求める権利があるのです。(その説明は同種の業務に新に雇用する場合の優先的機会を与える努力とは異なるものです。)このような説明責任について、もし「すてっぷ」のような公正な法の精神の遵守が期待される公的組織で法的責任がないものと解されるなら、何のための法であり指針であるのかというべきです。
 そこで控訴人の場合について勘案しますと、まず館長の雇用契約がそもそも非常勤の1年であったこと自体この施設の設置目的に反していたというべきです。本来常勤であれば有期とすべきではありませんが、もし非常勤の短時間勤務であるとしても、専門職である館長職なら5年の有期契約にできたはずです(労働基準法14条1項)。
 そして「すてっぷ」の組織変更に伴う雇用条件の変更がある場合、まず現職に説明する義務が事業主にはあったはずです。それがなされないで控訴人の意思に反する推測に基づいて新館長の選考試験を実施したことは、信義則にももとり不当といわざるを得ません。

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