陳述書

2007年11月11日

白崎順子

非正規雇用として20年


 私は、豊中市女性センター館長を雇止めの不当性を訴えている原告三井マリ子さんの友人です。非常勤職を20年間続けてきた経験から控訴審のために一言陳述させていただきます。

 私は、1988年以来、東京都内にあるT予備校の非常勤講師を20年間しています。この仕事を始めたときは一歳児の母親でもありました。離婚してひとり親となった私は、子どもが小学校に入学した時点で、正規雇用の口を捜しました。手始めに、T予備校の常勤講師として応募しました。結果は、「子どもがいるので夜の授業や会議は出席できないでしょう」との理由で、正規雇用としては雇われませんでした。それまでの5年間の私の実績や経験は評価されませんでした。

 非常勤講師は毎年契約更新します。非常勤講師だった5年間、授業に穴を開けたことはなく企業に何の不利益も与えたこともありませんでした。その結果、契約が毎年更新され、時間給も毎年あがっていきました。私は働く母親として、もちろん、子どもの発熱等を考慮して、二重保育(保育園への通園と個人保育士を常時雇用する)を5年間継続したことで、突発的な事故や病気にも対処できました。子どもや家庭のことで仕事に支障をきたしたことはありませんでした。

 こところが、いざ正規雇用を申し入れた時は、私自身が子どもや家庭を理由に仕事に不利益など与えたことはなかったにも関わらず、子どもを抱えたシングル・マザーは仕事に支障をきたすだろうという一般論で、私の申し入れが一蹴されたのです。

 その後、私は、いくつかの企業に応募しましたが同じような理由で却下されました。子育てと家庭の責任は男女ともに有する責務ですが、日本社会では今もって女性の側に大きな足枷となっています。

 私にとって正規と非正規雇用との違いはとても大きいのです。私の苦闘の経験をかいつまんで述べます。

 まず、非常勤であるため、医療、年金、雇用保険を自分が毎月支払わなければならなく、ひとり親として子どもを育てている私の肩に非常に重くのしかかりました。それらを支払うと、自由になるお金は非常に少なくなります。そして、小さい子どもは病気や怪我などで通院することが多く、国民健康保険の負担はきついものでした。

 さらに、不動産屋でアパートを契約する際、不動産屋は、まず正規社員であるかそうでないかを聞いてきました。正規社員でない場合、契約できるアパートの選択肢がきわめて狭められることを私は思い知りました。生きる基本である居住場所を確保するために、非正規である私は、正規職の人より何倍いや何十倍もの労力を使わなければいけなかったのです。

 銀行ローンの借り入れも、正規雇用の勤続年数が基準です。非常勤である私は、住居を手に入れる際、銀行ローンを組むことができなかったのです。私は、コツコツ預金をして、まとまったお金ができた時点ではじめて購入できたのです。おそらく正規職の人には、こうした苦闘は想像できないのではないかと思います。

 これが平等な社会といえるのでしょうか。

 憲法は基本的人権を謳っています。さらに何人も法の下に平等であって、差別されないと謳っています。誰もが平等の権利を有すると言う近代民主主義を基本とする日本社会において、非正規雇用者に対するこのひどい待遇は、著しくその平等に違反しています。非常勤雇用者に女性が圧倒的に多いことを考えると、女性への間接差別といえます。しかし、男女ともに非常勤雇用者が多くなっている昨今、単に女性差別の観点からではなく、社会的身分による差別として撤廃すべきです。

 非正規雇用は、90年以前は、子育てや家庭などとの両立のためにフルタイムで働くのが難しい主に女性たちの中で、主流となっていました。それがバブル経済崩壊後の企業の経費削減の中で、男女両方に蔓延し、2007年現在で、その数は全労働者の3分の1まで増えています。経済状態が徐々に回復している昨今でも、その悪しき慣行がそのまま続いています。企業効率にかなうため非正規雇用が減るどころかますます多くなっているのです。社会保障や福利厚生等における企業の負担率が少ないのですから当然です。この雇用形態がさらに、緊縮財政の地方自治体にも広がり、原告三井マリ子さんはじめ全国の女性センターなどに非常勤職員が増えたのではないかと思います。

 原告三井マリ子さんの控訴審の結果は、私たち非正規雇用によらざるを得ない人間、ことに働く女性たちにとっては重要な意義をもちます。

 司法の力が、この不均衡な労働条件、雇用条件に対して適切な判断を下し、日本の悪しき企業慣行を見なおすきっかけを作ってくれるよう心から期待いたします。

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