陳述書

2007年11月6日

高橋 芳恵(札幌市民)

放射線取扱い主任という非常勤職の声


2007年10月17日、朝日新聞を手にした私は、「え〜、これって、かつての私のことだ」と思いました。

一面トップ記事のタイトルは、『危険病原体ずさん管理』非常勤職員が作業。

産業技術総合研究所・特許生物寄託センターという経済産業省の機関で、非常勤職員(全員女性)が、菌の培養、生存確認試験などを、危険物質であることをまったく知らされないまま作業をさせられていたのです。女性たちが扱っていた病原体は、人が感染すると発熱などを起こし、最悪の場合死に至ることもある、きわめて危険な菌だということです。

この記事における非常勤職員が作業していた時と同じころ、私は、札幌市内にある現在の産業技術総合研究所(以前は違う名称でした)の公務臨時職員でした。

当時は5ヶ月、日給月給で働き、2ヶ月無給で休まされていました。その繰り返しで、約10年間働きました。当時は、微生物や細菌を扱う仕事をしていました。2μl (マイクロリッター=1/1000 ml)をサンプリングしたり、「失敗したら採取した菌がなくなるので1年間の実験が無駄になる」とプレッシャーをかけられたり、かなり精神的にも疲れる仕事でした。

上司からの「このような身分で仕事をするのはもったいない! いずれ良い仕事を紹介する」という甘い言葉を信じて働きました。内密で休日出勤もしました。

共同実験をしている大学にも通いました。その大学では、サンプルに放射線を当て菌にラベルしたり、汚染された菌を捨て(私は全て滅菌してから捨てましたが)、その容器を洗う、というような仕事をしました。

私は、「放射線取扱い主任者」という国家試験資格を持っていましたので、その仕事をすることはできます。しかし、放射線従事者の被ばく線量管理のために最低限必要な「フイルムバッチ」すら渡されませんでした。私は危険を感じ、「フイルムバッチをください」と上司に申し出ました。返ってきた言葉で私はどん底に突き落とされたような気持ちになりました。「使いたいなら私のバッチを使いなさい」。
私はこの言葉で、上司に寄せる信頼はゼロとなりました。後で知ったのですが、もともと、非常勤職員にはこのような仕事をさせない、というような内規があったようです。

ですから、10月17日、朝日新聞が報道した事件で、産総研の理事がインタビューに答えて、「 ・・・何も知らずに試験した人に事実を告知すると精神的なダメージが大きいと判断し告げなかった」というのを聞いて、非正規雇用者は、命が奪われるようなことがあっても何も知らされず使い捨てられるものなのだ、と再認識しました。

私は、自分の経験からも、非正規だからといってこのような人権無視の雇用状態をいつまでも続ける社会を放っておいて良いはずがないと、強く思います。

三井マリ子さんは、それまで仕事を評価されていたにも関わらず、嘘に嘘を重ねられ、情報から徹底的に隔絶されて雇止めされました。

第1審の判決は、被告が三井さんに嘘をついたことや、意図的に情報を秘匿したことを認めていながら、雇止めは違法ではないとしています。これでは非常勤を雇止めするには理由などいらない、ということになります。

正規であろうと非正規であろうと、同じような仕事(いや、私の経験や朝日新聞記事にあるように正規職員よりさらに危険度の高い仕事)をしているなら、同じような処遇・待遇であるべきです。
非常勤職員の人権を取り戻すために、三井マリ子さんの裁判を応援しています。

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