陳述書

2007年12月3日
高開 千代子

 私は、1974年に当時の郵政省徳島貯金事務センターに就職し2000年7月に退職するまでの間、職場で労働組合の役員を担い、同時に雇用機会均等法制定前から徳島県労働組合評議会婦人部長も務めてきました。女性労働者の働く権利確立のための活動を続けるにつけ、職場の運動だけでは解決しない課題に何度も直面し、政治の場に出て行くことを決意しました。徳島県議会に挑戦したものの議席を得ることはできませんでしたが、市民として県議会の動きにはいつも関心を持ち、傍聴もしてまいりました。その経験から、行政がいかに議員の発言に敏感に反応するか、そしてその結果、男女共同参画行政がいかに変節させられていったかについて陳述します。

1.2003年6月徳島県議会

 2002年3月に制定された徳島県男女共同参画条例に基づき、早急に取り組むべき課題をとりまとめた「とくしま男女共同参画実行プラン」が策定される予定でした。ところが、この「とくしま男女共同参画実行プラン」の中に一言も記載されていない「ジェンダーフリー」という言葉に対して7月7日の総務委員会で竹内資浩議員(自民党・県民会議)が以下のような発言を行い、「とくしま男女共同参画実行プラン」策定に待ったをかけました。

「ジェンダーフリーはフリーセックスより過激だ」

「日立市では教育現場にジェンダーフリーを導入。小学校の身体検査で男女一緒に裸にするなどの指導をした結果、教室崩壊現象が起こっているといわれる。ここまでやらないと男女共同参画が実現しないとなれば、父兄から子供を学校へ通わせたくないとの声が出ても不思議ではない」

  それに対して本田耕一議員(県民ネットワーク・夢)が「プランは全体的にみて良い内容である」とプラン賛成の立場で質問をしたものの、他の議員は「ジェンダーフリー」という言葉を初めて耳にし賛成も反対もないという状況、加えて県も明確な答弁ができず、河野尚二理事が「議会で勉強会をしたい」と答え、策定を9月議会へと先送りしました。

2.2003年9月徳島議会

 「過激な男女共同参画」(この表現はバックラッシュ勢力が男女平等推進を攻撃する際の常套句)への批判、中でも学校における男女混合名簿*1に集中して批判が繰り返されました。  10月1日、自民党・県民会議の代表質問を竹内資浩議員が行いましたが、70分のうち30分が上記「とくしま男女共同参画実行プラン」に関することでした。発言内容は、徳島県のホームページに議事録が掲載されています。とくに彼が力点を置いて質問を繰り返した男女混合名簿についての発言は以下のようなものでした。

「純粋できれいな心を持ち、真っ白い脳を持つ小学生のときから、男と女の区別はない、すべて混合だと教え込まれていく子供たちの未来を考えるとき、このまま黙って見過ごすことはできないのであります。マスコミの社説も真っ二つであります。県民の考えも、議会の意見も分かれています。このように政治的・思想的意図が非常に使いやすい状況を、中立であるべき教育委員会がとってもよいのでしょうか。この項目は削除すべきであります。」

「静岡・沼津で、小学校の五年生が同じ部屋で男女が泊まった。そういう現象まで起こっておる。このことを徳島県は起こってないからいいんだっていうふうな、そんな簡単な考え方、困りますよ。教育委員会の中立、これを守るために絶対に削除すべきです。もう一度答弁ください。男女の区別がなくなるんだと教える人によったら教えるんだから、そんなばかなことはないですよ。人権人権と言ったら何でもいいように教育委員会は言ってますけど、男女の区別をなくして、レズビアンやホモや、そういうものまで称賛するようになったら日本の国はつぶれますよ。少子・高齢化、大変な時代の中でそんなことがどんどんどんどん今進んでいるじゃありませんか。結婚をしない症候群、それだってそういう人たちのこの流れがあるわけですから、もう一度考えていただきたい。」

 議会議事録に記録されるとわかっていながら差別的表現を使う人権感覚のなさは憤激ものです。同時に、あまりに非科学的で、荒唐無稽ともいえる内容に失笑せざるをえないほどです。しかし、この本会議発言を受け、10月8日の総務委員会、9日の文教厚生委員会、14日の人権対策特別委員会、さらに20日の総務委員会で質問が繰り返される事態となりました。そして、「実行プラン」の策定を認める代わりに議会の意思を示すために「男らしさ女らしさを否定しない決議」をすることが20日の総務委員会で決定されました。

 地元紙徳島新聞は、21日、「男女参画プラン 県議会が歯止め」「異例の決議案提出へ」「男らしさや女らしさ否定しないで!」という見出しでこの「男らしさや女らしさを否定しない決議」について報道しました。同紙は、県の男女共同参画推進計画に対して、議会が歯止めをかけようとするような決議は極めて異例だということを紹介し、「男らしさや女らしさを否定したらいかん、という議会の意思表示をしたらどうか」などという自民党議員の発言や、県民ネットや共産党の反対意見を載せ、決議の提出要件を満たす4人が賛同したと報じています。

10月21日の議会運営委員会に提出された決議案は以下のとおりです。名称は「真の男女共同参画社会の実現を求める決議(案)」とされていますが、驚くほど反動的内容です。

真の男女共同参画社会の実現を求める決議(案)

 男女共同参画社会の実現は、21世紀の我が国における最重要課題の一つであり、本県においても男女共同参画推進条例の制定を受け、その早期実現に向けさまざまな施策を積極的に推進するため、県の男女共同参画実行プランを策定しようとしているところである。
 男女共同参画の推進は、憲法で保障された個人の尊厳、男女平等の基本理念を具現化するものであり、早急に取り組むべき必要性、重要性については、何ら異論はない。
 しかしながら、男女共同参画に関して、現在、一部には、男女の違いを機械的、画一的になくし、男女の区別を一切排除しようとする立場があるが、それは著しく誤った考え方であり、真の男女共同参画社会は、男らしさ、女らしさを一切否定するものではない。
 よって、本県議会は、県の実行プランの策定に当たり、男女共同参画社会基本法及び県条例の本来の趣旨が活かされ、真の男女共同参画社会の実現が図られるよう、次の事項を強く求めるものである。
1 男女の特性と区別を認め、お互いが尊重し合い、男女平等の視点に立って男女共同参画社会の実現を図ること。
2 家庭を大切にし、家族の絆を深めるための諸施策を進めること。
3 我が国の誇る伝統、文化を守ること。
4 画一的な結果平等につながる施策、教育は行わないこと。
5 一部の過激なジェンダーフリー思想に基づく教育は行わないこと。 (混合名簿導入については、慎重に扱うこと。)
    以上、決議する。

 ただ、翌22日の閉会日に提案された決議案から上の3、4、5が削除されていたのは、せめてもの救いでした。

 特筆すべきは、一連の議員発言を受けて、決議の採択より先に、行政担当者は「とくしま男女共同参画実行プラン」の文言を当初の内容から変えていったことです。原案の9カ所 に加筆や字句変更を施し、プラン冒頭には飯泉嘉門知事の挨拶文を追加し「この取り組みは、個人の内面にかかわる男らしさ・女らしさ、あるいは伝統や文化などを否定するものではな く、男女の差の機械的・画一的な解消を目指しているものでもない」との断りを明記したのです。

 とくに焦点の男女混合名簿については、「B男女共同参画を推進する方策の一つとして、男女混合名簿の実施を促進します」の後に当初はなかった次のような文言が新たに書き加え られました。

 「学校長が導入の判断をするにあたっては、その趣旨について、教職員、児童生徒、保護者等関係者の理解を得るとともに、その実施に際しては、児童生徒の発達段階に応じた適切な運用を図ることが重要です。」

 これは、10月14日の人権特別対策委員会での藤田豊議員(自民党・県民会議)の「本会議での質問の趣旨、文教委員会でも出ていることを踏まえて整合性のある言葉に変えたらど うか。『促進』でなく『学校長の判断』を明記するつもりはないか。」という直接的要求があったことを踏まえたものでした。また、10月20日の総務委員会では、竹内資浩議員が「混合名簿について松浦教育長に6時間も話したのに、全然変わらん。その堅い信念はどこから来ているのか?」と発言しています。変更を迫ったにもかかわらず混合名簿自体は削除されなかったことを悔しそうに発言していたのが印象的でした。

 つまり、バックラッシュ勢力の発言に気兼ねして、男女混合名簿にすることをけん制する表現を追加したのです。バックラッシュ議員対策といえます。

3.9月議会前の市民の会議

 前後しますが、9月議会開会前の9月20日に、私が代表世話人を務めております男女共同参画社会を進める会の主催で、県議会各会派に呼びかけて「一日も早い男女共同参画プラン策定に向けて 県議会議員に問う」というパネルディスカッションを開催しましたが、この開催に対して県担当課が否定的に考えていたということも仄聞しております。後日、当時の県男女共同参画課長は、「あのパネルディスカッションに出席した長池武一郎議員は当初本会議一般質問でプランに触れる予定でなかったのに、自分の意見に反論されたことに腹を立てて質問に入れこんだ」と私に話しました。

 議員をへたに刺激すると通るものも通らなくなるということを行政幹部は思っているらしいのです。「行政がうまいことまとめているのに変な動きをして議員の感情を害さないで欲しい」が本音です。行政幹部はなんと議員におもねることよと思ったことを私は今でも覚えています。

4.結論
 以上の実例から、議員と行政の関係で私が強調したい点は、行政は施策を進めて行くために議員の機嫌を損ねないようにと細心の注意を払っていること、一方、議員は自分の要求を通すため平気で行政に圧力をかけるものだということです。

本件、三井マリ子さんの館長雇い止めに関しましても、徳島県におけるような、もしくはそれ以上に大きな圧力が、議員から行政にかけられたものと、私は判断するところです。

注*1学校の名簿は、男性のアイウエオ順が先で、その後に女性がアイウエオ順に並べられている所が多い。 これが男が先、女が後という行動パターンを押し付けることにもなっている。また国際的には名簿が性によって分けられている国はほとんどないことから日本でも性にかかわりなくアイウエオ順でしようという傾向が強くなっている。バックラッシュ勢力はこの傾向に反対している

      
     注 
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