11月例会報告

「館長雇い止めバックラッシュ裁判―原告・三井マリ子さんのお話を聞く」

遠山日出也(日本女性学研究会会員)

 11月例会「館長雇止め・バックラッシュ裁判原告・三井マリ子さんのお話を聞く」の報告をします。

やや少なかった参加者

 参加していただいたのは、14名(会員7名、非会員7名。講師含む)でした。同じくらいの人数の例会はしばしばありますし、参加者が少なかったのは、他の行事と重なったためなどもあるようです。しかし、多忙で精神的にも大変な原告の方に、この例会のためだけに大阪に来ていただいたことを考えると、申し訳なく感じました。

 例会の宣伝はさまざまな形で大量にやりました。ただ、事前にVOWに裁判の内容をかなり詳しく書いてしまったことが、かえって「当日もどうせ同じような話をして、『支援してくれ』と訴えるだけだろう」と思われることにつながったのかもしれません。

 ですから、事前にもっと、単なる裁判支援の訴えではない、三井さんのお話の魅力を宣伝すべきだったと反省しています。

 また理想を言えば、WSSJらしく、運動と研究を結びつけるような企画ができていれば、より多くの人に関心を持っていただけたかもしれません(たとえば「バックラッシュと女性学」というテーマなど)。今後、何らかの形で取り組みたいと思います。

三井さんのお話

 例会では、まずこの事件を報じたMBSの放送のビデオ(2005年4月放送)を見ました。この放送では、北川悟司・豊中市議会議員の「オスとメス、男と女は有史以来ずっとあるわけですから、男性は小さいうちから男性の自覚を、女性は女性としての自覚を」という発言や、北川議員と仲間の女性3人が、ある夜、市役所の会議室に三井さんや担当課長を呼び出して、3時間にわたって糾弾したことなどが紹介されていました。また、西村真悟議員の「世の中で一番素晴らしいことは、愛する子どもを育てること。女性が安心してそうできるように、男はある意味、命を捨てても働く」という発言も出てきましたが、これはまさに、バックラッシュ派がめざす社会の危険性(の一端)を彼ら自身の言葉で述べたものだと感じました。 次に三井さんのお話がありましたが、複雑な事件の経過をごちゃごちゃ説明するのではなく、簡潔にポイントを述べたあとは、原告本人尋問の時のことに絞ってお話されました。その中の二つの話が印象に残りました。

 第一は、三井さんに対する人格攻撃についてです。被告側は、証拠として十数年前の新聞記事を出してきました。一つは、三井さんが公費によるミスコンに反対した時の記事、もう一つは、セクハラに抗議して社会党をやめた時の記事です。当時のマスコミの取り上げ方はさまざまだったようですが、被告側は、その中の、三井さんを悪く書いた通俗的な新聞(『東京タイムス』)の記事や社会党関係者の発言を載せている記事をわざわざ探し出してきて、証拠として提出してきたそうです。それによって、「原告はトラブルをよく起こす、こんな女なんだ」ということを言おうしたとのことです。

 弁護士からは、「裁判の原告になるというのは大変よ。とくに女が原告になるのは大変よ」と言われたとのことで、「夕方以降は被告側の文書は読まないほうがいい」とも言われたそうです。「セクハラ裁判の原告に対する攻撃はこんなものじゃないのよ」とも言われたと聞きますが、こうした二次被害(加害)、とくに女性に対するそれが、司法の場でまだまだ蔓延していることを感じました。

 第二は、豊中市が、「すてっぷ」を管理する財団(とよなか男女共同参画推進財団)の2003年3月の会議録を改竄して、バックラッシュについて述べた発言や、バックラッシュの影響で豊中市が同月の市議会に男女共同参画推進条例案を提出するのを見送ったことを述べた発言を削除したことです。この改竄によって、当時のバックラッシュや、豊中市がそれに影響されていたことを隠蔽し、さらに同年9月の市議会で条例反対派との間に「三井館長の首と引き換えに条例を成立させる」という裏取引をした疑惑をも隠蔽しようとしたようです。しかも、豊中市は、このような改竄を、三井さんも了承していたという嘘の陳述書を原告本人尋問の直前に提出してきたとのことでした。

 私は、権力というものは、自らに刃向かう人間を攻撃するためには、ほんとうに卑劣なことをするものだとあらためて感じました。

 三井さんは、「反論する余裕が1日しかなくて大変だったけれど、別の文書に、会議録の内容について『市と調整中』という文言があるのを見つけて、市の主張を崩すことに成功した」という裏話をなさいました。 自分の体験を語り合う

 三井さんのお話を短かったおかげで、1時間半近くも話し合いの時間がとれ、また参加人数が少なかったことがかえって幸いして、全員で話し合うことができました。

 その話し合いは、女性センターのあり方や非正規雇用、豊中市政の変遷などについて、評論や抽象論ではなく、まさに自分自身の体験を語り合う、とても良いものになりました。しかも老若男女、さまざまな地域の方がいらっしゃったので、若い方の新鮮なお話も、ご年配の方の貴重なお話もあり、私など、肝心の司会のことなどすっかり忘れて聞き入ってしまいました。

 たとえば、豊中市立「働く婦人の家」の時代は、粗末な建物で、細々とした活動ではあったが、男女平等に関する催しを重視していたことや、女性運動の力で「すてっぷ」も出来たが、設立当初から行政は女性の運動を切り捨てた面があることなどが話されました。

 当日の感想用紙には、「三井さんの生の声が聞けてよかった」「三井さんの行動力に敬服します」など、さまざまな感想が書かれていましたが、とくにこの話し合いについては、裁判についてはよくご存じの支援団体の方からも、「元気に自分の思いを語れる方々にお会いできたことが一番うれしかった」、「正規になっても、非正規雇用の問題を自分の問題として捉えられている方の発言にいたく感動した」などの声をいただきました。

 最後に私から三井さんに女性学研究への要望などもお聞ききしましたが、その後、三井さんから「女性学研究者への訴え」をいただけることになりましたので、次号のVOWにて掲載させていただきます。


(出典:日本女性学研究会ニュース『VOICE OF WOMEN』 2007年1月号に掲載)



トップへ戻る
トップページへ

Copyright(C)ファイトバックの会All rights reserved.