二人のマリコさんが裁判で問いかけているもの 

 正路怜子

 京都ウイングスで嘱託だった伊藤真理子さんの裁判をご存じでしょうか。一般職員と同じ仕事をしているのに、嘱託だという理由で、賃金が半分なのはおかしいとして、京都市相手に裁判を始めた彼女のホームページに次のような言葉が載っていました。「嘱託職員は京都労働局雇用均等室室長補佐と面談し、処遇改善の支援を求めました。室長補佐はパートタイム労働法の対象にはならないので行政指導はできない可能性を言われました

 その理由として、8時間労働の嘱託職員は、労働時間が一般職員と同じだから短時間労働者ではないこと、一方7時間労働の嘱託相談員は、相談の仕事をしている一般職員がいないので比較する対照がないのでパートタイム労働法の対象にならないというものでした。」

 パートタイム労働法は、パートで働く人を守るはずなのに、出来るだけ排除するように解釈するらしい。住友電工裁判では「女性の管理職が一定いるから、調停を開くほどのことはない」となって、調停を開始しなかったので、国家賠償裁判になった。

 法律があっても、それをつかう行政官は及び腰です。上司の許可なしでは、新しいことに挑戦出来ないのでしょうか。でも裁判になると、少しは真実のかけらが見えてきます。ウイングスでは指定管理者制度でお金がないからというのが低賃金の理由のようですが、それなら人件費はきちんと計上して予算を組むのが当然だし、女性運動も予算獲得に向けた運動が必要です。住友裁判では、男女の賃金差別は、公序良俗違反ではない、当時は均等法もなかったと言われました。そこで国連・女性差別撤廃委員会の勧告を大宣伝し、コース別雇用は間接差別だとキャンペーンしました。

 裁判が出来ると言うことは、それだけの力をつけたということだ、とある弁護士が言っていましたが、二人のマリコさんが原告になったのは、歴史の必然なのでしょう。パートだと言うだけで、低い賃金、有期雇用のために文句を言ったらすぐに首、泣き寝入りし、悔し涙を流したたくさんの人たち、生活に必死で、裁判も出来ない、いや怒りを育てる時間もない人たち、二人はこういう人た ちの願いを背負って裁判しているのです。

 日本の雇用や賃金は、あまりに不公平です。とくに女性の労働権はなきがごとしです。せっかくILO100号条約を批准しているのに、同一価値労働同一賃金は、全然具体化していません。京都ウイングス事件は、この条約の適用を巡って、とてもわかりやすい裁判です。

 もう一人の三井マリ子さんの裁判は、提訴から2年9ヶ月、2007年9月12日の大阪地裁判決は、慰謝料を払うほどの違法性があったとはいえないとして、原告全面敗訴となりました。組織体制を変えるとしたら、あなたが第一候補だと言った山本事務局長の証言や、桂容子さんの、三井さんが続投なら私は留保しますといった誠実な言葉に裁判官は耳を貸さず、有期雇用だから、しかたがないと切り捨てました。次々と敗訴を繰り返す有期雇用裁判の原告たち、バックラッシュによって首を切られた理不尽さ、それを取り繕って、組織強化のためだと嘘でごまかす行政のやり方、それを追認する審議会(すてっぷ財団の理事、評議員を指す―編集者)の委員たち、彼女の提訴によって、いろいろな問題が明らかになりました。

 あちこちの女性センターには非常勤職員がいっぱいいる。雇用の継続までは労組が頑張ってくれるが、賃上げまでは無理なので、結局やる気のある人は次々とやめていく。こういう話を聞き始めて何年になるだろうか。女性問題に興味を持ちだした専業主婦が女性センターで数年働き、さらに次の仕事を見つける、それでいいではないかという人もいる。それにしても、女性施策を推進するセンターの足下で、低賃金や有期雇用の問題をずっと棚上げにしたままで事を進めていいのだろうか。バックラッシュに目をつけられないように、自己規制して、少ない予算で、細々と推進する女性施策とは何だろう。

 二人のマリコさんがはじめた裁判は、女性学や女性運動が現実にどういう役割を果たすことが出来るのか、たくさんの市民の共感を得るにどうしたらいいのか、その真価が問われる裁判です。詳しくはそれぞれのホームページを見てください。

(出典:「世界女性会議ネッ関ニュース」67号 2007年11月10日発行)


伊藤真理子さんHP:ウィングス京都賃金差別裁判

三井マリ子さんHP:トップへ


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