労働旬報特集

「とよなか男女共同参画推進センター“すてっぷ”館長雇止め事件」を読んで

2010年8月14日
岡田夫佐子(児童福祉施設保育士)


『労働旬報』下旬号

■実に迫力がある

 これはおもしろい! 実に迫力がある! 三井マリ子さんの「陳述書」や、弁護団の「準備書面」に書かれてこなかった事実も明らかにされ、三井さんの闘いの実態が行間からストレートに私に語りかけてくる。

 この迫力の源泉は、すべての登場人物が実名であることによるところが大きい。事実とか、実名というものは、そうした重みと力を持つものである、と改めて感じ入る。また、確定段階でなくとも、「裁判に勝つ」ということは、こういうことであると、肌感覚で伝わってくるものがある。

 これまで私が目にしてきたこの裁判に関わる文章の多くが、弁護士の準備書面以外では、ことに人名に関して伏字=イニシャルであったことが対比的に思い浮かぶ。そこには、いろいろな事情や配慮が働いているものと思うが、その縛りを一挙に解き、すべて「実名で事実を伝える」姿勢を明確にとったことは、三井さんの誇りと尊厳をかけた新たな決断があったのでは、と推測する。

 「なぜ私は提訴したか」を読み、なぜ三井さんが提訴したかを改めて、よくわかった。提訴は「女性の連帯を壊す」とのプレッシャーにもめげず、よくぞここまで持ちこたえた、と思う。口幅ったいことだが、正面の敵からではなく、横にいるはずの仲間内からの非難がいかに心をくじくものであるかは、体験的に私も知るところである。


■非正規労働者に大きな励ましとなる判決

 寺沢勝子弁護士の解説は、最後にまとめられていることに尽きる。

 「国、自治体の非常勤職員の期間満了を理由とする雇止め(不再任用)について、労働者が勝利するのは、きわめて難しい状況にあって、地方公共団体の特別職の非常勤職員の公務員に準ずるとされる事案において人格権侵害による慰謝料請求が認められた意義は大きい。とりわけ、説明を受け、情報を得て、協議に積極的に加わり自らの意見を述べることなく、財団から排除されることに対して人格権侵害を認めたことは、期間が満了したしたことのみで雇止めが一方的に行われている現状においては、大きな意義がある」と。

 裁判所は、たとえ雇止め事体に違法性がなくとも、人=労働者を当たり前に尊厳ある存在として扱うことを求めたのである。初代“すてっぷ”館長、三井マリ子さんに対し、豊中市と財団が尊厳ある存在として扱わなかったほぼすべての事実を認定し、人格権侵害という違法行為があった、として、少ない金額ながら、それを賠償せよ、と命じたのである。

 寺沢弁護士の言われるとおり、この判決は、「国、自治体で働く非正規労働者には大きな励ましになる」。と同時に、「女性」という存在にとっても「宝となる判決」である、と思う。


■よもや最高裁において覆されるはずはない

 そして、次ページの浅倉むつ子教授の文章へと続く。浅倉教授は意見書を書くにあたり、最も重要なこととして心がけたのは、バックラッシュを知らない裁判官でも、「なぜ豊中市や財団が館長を排除するような行為を行ったのか」について腑に落ちるような形で、事実を解きほぐしてみようということだった、と記しておられる。その努力には頭が下がる思いである。その努力が裁判官にも通じた結果、高裁の逆転勝訴につながったと思う。最後に浅倉教授は書いておられる。

 「本件は現在、上告されている。しかしながら、豊中市における男女共同参画拠点施設の館長として誠実に職務を果たしてきた三井マリ子館長に対してなされた、職業上の誇りや尊厳を傷つけるような本件のような人格権侵害行為が、よもや最高裁において『許されるもの』と判断されるはずはないであろう」と。

 まったく同感である。


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雑誌『労働法律旬報』2010年7月下旬号。特集名は「とよなか男女共同参画推進センター『すてっぷ』館長雇止事件。三井マリ子、寺沢勝子、浅倉むつ子論文に加え、大阪高裁判決(塩月秀平裁判長)の全文が「労働判例」として掲載されている。購読したい方は、旬報社03-3943-9911に直接申し込みください。

■労働法律旬報No.1724 7月下旬号はこちら 

 

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