―館長雇い止めバックラッシュ裁判−

三井マリ子さんをお招きする11月例会開催に寄せて

村井恵子

危機感の共有から「反撃」へ

 遠山日出也さんとは三井裁判証人尋問のあとの「ファイトバックの会」(=「館長雇い止めバックラッシュ裁判」を支援する会)の集まりでご一緒して、「村井さーん、日本女性学研究会の例会で一度三井さんの会をして、三井さんにお話していただきませ〜ん?!」とにこにこ話を持ちかけられた。「そうですねー、それっていいことですね〜」とすぐに企画にのってしまったのが運のつきだったが、確かに遠山さんも私も(小松さんも)、WSSJ会員でありつつ、この10年WWN(ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク)にも入り、WWNのつながりで、今回三井さんの裁判にも出会うことになって、問題意識がお互いに共通しているところがあるように思う。
 つまり、女性学やジェンダー学は、数多く本を読み、数多く話を重ね、もはや方向性は見えており、女性状況は十二分に認識しているのに、現実の政治、制度はちっとも変わらないばかりか、そうこうしているうちに敵方の近頃のこのひどさは一体何だ!野放しにしておけないではないか!!とバックラッシュへの危機感をしっかり持っているところが似ている。この危機感は会員の皆様も共有していただいていると思う。
(俵義文さんによると、現内閣大臣18人中、日本会議国会議員懇談会のメンバーが16名で、「日本会議のハイジャック‘内閣’」だとのことーファイトバックMLから)。
 WWNでは大企業や政府をも相手にし、国連をもバックにしながら、常に元気にぎりぎりまでやられるがんばりがいつも勇気づけられているが、それにも増して、今般のバックラッシュそのものに対抗して打って出られた三井さんの心意気は、今の日本のフェミニズム、男女共同参画に本当にかけがえがなく貴重なものに思われる。今度WSSJ11月例会に`強靱でさわやかな風’のような三井さんをお迎えすることで、彼女のパワーと智恵を分けていただくとともに、ここは私達からも大きな応援をおくって、現実に勝利へと結びつくよう、そうした実際行動がこの時期特に必要だと、遠山さんとともに例会担当をさせていただくことになった。

真実が表現された三井さんの「陳述書」

 「ファイトバックの会」の初会合が開かれた頃、真相がまだよくわからない女性達の間では「三井さんが館長を辞めるって言ったの?」「桂さんが三井さんを押しのけて館長になったの?」あるいは「なぜ皆で力を合わせられなかったのだろう」などの話が噂のように行きかうことがあった。私は「これはおかしい」と思い、それでファイトバックの会に入会したようなものだった。
 三井さんの豊中すてっぷでの館長としてのお仕事振りは誰もが広く知っていたところで、北欧、EUがモデルの先進的でダイナミックな企画の数々は国際化時代にふさわしくまた重要で、(日経新聞など大メディアでも紹介され、私もいくつかをよく記憶している)、到底すぐ辞める人とは思えなかったし、一方桂さんもまた、持ち味は違っても、男女平等に大事なお仕事を民間、行政でこつこつ継続され、20年以上も前から運営会や研究会でもお会いしたり、人柄も文章も誠実で、とても人を押しのけるタイプの人ではない。
 裁判が始まり、今年は三井さんの「陳述書」も発刊されて、あの頃の噂や疑問はたちどころに解消した。三井さんと桂さんの間の問題でないことは読むほどにすぐわかる。執拗なバックラッシュ勢力の脅かしや嫌がらせが先ず男女共同参画センター「すてっぷ」にあり、当然それに対処して解決していくべき立場の豊中市と財団「すてっぷ」の、(驚くべきことにそのうちのたった数人の)人物が、理事会にも組合にも隠密にしつつバックラッシュ勢力と裏取り引きの画策をして、全国公募で数多くの女性の期待をになって選ばれた三井さんを蹴落としたわけなのである。
 非常勤雇用というだけで、なんと蹴落としやすい、使い捨てしやすい構造になっていることか。来春施行の改正雇用均等法でも深刻な未解決問題として残っているのが、この非正規雇用の女性差別、間接差別の就業構造である。行革だ、表向きは組織強化だと見せかけつつ、女性なら能力も人権も無視して、三井さんのような能力の人まで切り捨てていいのか。一色貞輝豊中市長の姿勢は、厳しく追求されなければいけない。
 陳述書はA4、10万字にも及ぶ冊子で、三井さんの渾身の力が注がれているが、行政の女性たちの現場からの証言もたくさん寄せられたからこそ、この書が出来上がったとのことだ。そして桂さんからも三井さんに大きな協力があった。館長交替劇直前のいくつかの非常に重要な情報は、この書の完成への支えになったということを聞き及んで、私はお二人を思って感慨深い思いがする。

許してはならない! 山本瑞枝事務局長他、牛耳った人物たち

 この事件はたった数人の牛耳りによる画策である。私たちはとかく「行政」「市」「バックラッシュ」などというと、抽象的で漠然と巨大な力のように思いがちだが、問題の人物達はバックラッシュ側の人物達も含めて数えるほどに少ない。こういう人達がこの部署にいたおかげで、営々と築き上げられてきた多くの女性達の平等への努力、21世紀に入っていよいよ実行されるべき日本の男女共同参画がいとも簡単に崩されてしまうようなことになったらたまらない。
 証人尋問は今、豊中市の本郷和平人権文化部部長、武井順子元人権文化部男女共同参画課課長、山本瑞枝元「すてっぷ」事務局長(「市」からの派遣職員で三井さんの部下だった人)と進み、10月2日は、理事長の仕事をたいして果たしていない一方市長の言うなりと言われている、三井館長を切るのに関与した最終責任者のとよなか男女共同参画推進財団高橋叡子理事長が証言台に立つ。
 私はこれら証人尋問傍聴に参加したり、ファイトバックの会MLなどで皆さんから聞いて、またしても驚かされることがあった。解決の重要な鍵となる桂さんと一色市長は証人になんとしても出さぬまま、彼らは証言台に立つと、裁判長の目をくらますよう偽証をする部分が見られるのだ。偽証については、彼らと面識のあった伊田広行さんや小松満貴子さん、豊中市の和田明子さんや山田千秋さんが裁判所にこのあと陳述書を提出されている。
 証人尋問の記録やこれら陳述書は、あとで一般市民であれば裁判所で閲覧したり簡単なメモもできる。私も夏の間に気になるところを閲覧させてもらった。
 私は特に山本瑞枝事務局長の反対尋問の傍聴が可能だったのだが、彼女には本当に考えさせられることしきりだった。不当なバックラッシュに初めは闘う様子を見せながら、突如180度態度を変え、上の者にへつらう側へと回る。部下のふりを装い、隣に座る三井さんを極秘裏で追い詰める。「三井さんは3年で辞める、と言った」と、本郷・武井部課長と組み人々に大嘘をついて回った人物である。まるで身体の色がみるみる変わるカメレオンではないか。
 ここに証人尋問記録の閲覧でメモをしたいくつかがあるが、例えば組織変更に関して川西渥子弁護士に「館長部分の変更こそ本来館長に意見を求めるべきところを、立ち上げ段階の知名度を高めるための政策的な館長だったらなぜに館長に相談できないのか」とたたみ込んで訊かれた時にも、彼女は「非常勤館長職の配置効果というのについては一定評価を行う必要があるというふうに書いておりますけれども、その配置効果の評価というのは、まだ行っておりませんから」などと平然と訳のわからないことが言える人である。
 組織は抽象的ではなく、少数の人間で動かされている。「もし三井館長の部下がこの山本事務局長でなかったとしたら、たとえ同じバックラッシュがあっても、もっと違う展開ができたかもしれないのに」と私は「ジェンダーと制度研究会」の「陳述書」読書会で、開口一番嘆いて言ったら、他の皆さんもうなずいておられた。
 山本事務局長の部分は三井さんの「陳述書」でも他の人物に比べても最も多く、20カ所以上記述されている。皆様もぜひ下記の迫真の「陳述書」を購入されて読んでください。


 

追記:

 今日、10月2日、高橋叡子理事長の答弁を傍聴席で聴いて、もう呆れちゃって帰ってきました。「館長職は長期に占有せず、(職のない)女性達のためにはいろいろな人が館長になる方がいい」なんて言うのです。これは女性は非正規雇用でもなんら問題がないとする抑圧する考え方につながり「危険」です。市の本郷部長と山本事務局長の報告はすべて100パーセント鵜呑みにしており、自分で理事長の責任を果たせない。「人事権の最高権限は市長と私」と言う一方、「私は男女共同参画のことはわからない」なんて臆面もなく言うなんて〜。あとの弁護士解説付き交流会で思わず「あの人はもう降りていただきたい、リコール!」の声が出ました。あまりにもひそひそひそひそした声のため、皆が聴き取りにくく、とても疲れました。
ああ、つくづくと配置が適材適所になっていない。そういう怖〜い日本社会です。
三井さんをお招きする11月26日の頃には、この裁判はどのような展開になっているのか。女性の行方がかかるとともに民主主義の行方もかかっていると思えるほどな、皆で勝つべき裁判です。

次回はいよいよ原告三井マリ子さんの証人尋問、100人の大法廷。

誰でも参加できます、傍聴に参加しましょう!

10月30日(月) 午後1時10分〜5時

大阪地方裁判所 202号法廷

証人:原告 三井マリ子

問い合わせは「ファイトバックの会」までfightback@hh.fem.jp


(出典:日本女性学研究会ニュース『VOICE OF WOMEN』 2006年10月号に掲載)


日本女性学研究会

WWN (Working Women's Network)


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