三井マリ子さん 勝利集会報告
よかった よかった 本当によかった

古守 恵子

日時:2011年5月21日(土)午後2時〜
会場:大阪府豊中市とよなか男女共同参画推進センター「すてっぷ」

■全国公募の館長が雇止めに
三井マリ子さんの「バックラッシュ裁判勝訴」を祝う集会に参加した。三井マリ子さんは都議会議員を二期勤め、女性の視点を議会に反映させるべく活躍し、マスコミにもコメンテーターとして顔を見せていた。

1999年男女共同社会参画法案が施行され、男女共同参画事業が推進され、各地で「器」作りが進められた。そんな中で大阪府豊中市は、男女共同参画推進センター「すてっぷ」の初代館長を全国的に公募し、選ばれたのが三井マリ子さんだった。三井マリ子さんの就任はニュースでも報道された。三井さんの活躍を想像し、羨ましくも思ったものだった。その三井マリ子さんが「雇い止め」され、そして豊中市とセンターを相手取り裁判を起こした。それが「バックラッシュ裁判」であった。

これは困難な裁判になると思っていた。「バックラッシュ」とは何か、今でも知らない人が多いのだ。そんな情勢の中でバックラッシュがあったことを、どのようして明らかにしていくのか。はたまたそれが判明したとしてどのように闘うのか。苦しい闘いになるだろうと思っていた。一方、このような理不尽を許してはならないとも思った。

■判例として確立させた
集会当日、会場正面のスクリーンに映し出された「よかった よかった 本当によかった」の文字。余りにそのままで、気持ちがストレートに入ってきた。それは当たり前の判断が当たり前に出てくるまでの原告、弁護団、支援者の「思い」がそのまま言葉になっていたからだろう。三井さんは卵色の華やかな衣装に身を包み、それが祝賀の雰囲気を一層盛り立てていた。一部は弁護団、支援者など多くの方の報告があったが、抜粋しての報告である。

三井さんは挨拶の中で、「2000年この会場に起こったことが6年半の闘いのルーツであった。」と当時を振り返って報告した。

2000年、初代館長となったが、オープニングセレモニーの会場に彼女の席はなかった。「出なくていい」の一言。彼女は会場が見渡せる映写室のガラス越しにセレモニーの始終を見ていたという。「男女共同参画」といいながら「器」はできても「魂いれず」。センター(行政)が見ていたのは市議会であって、市民ではなかった。この事を通して「行政とは嘘をつくものだ。情報を隠すものだ。権力は暴走するものだ。ということを学んだ」という。(悲しいことだが、心に刻み、監視していく責が我々にはあるということだろう。)そして、「今回の事件は『人格権侵害』を認めさせ、判例として確立させることができた。役に立てたのではないか。」と自分の歩んだ道に自信を窺わせた。

■浅倉むつ子さんの意見書
今回の裁判で大きな役割を果たしたのが浅倉むつ子さん(早稲田大学大学院教授)の意見書である。浅倉さんは、「今回の事件は労働法(雇い止め)と、ジェンダー法(ジェンダーバッシング)の架橋をなす事件であった。」とし、意見書を書き上げるまでのことを話された。

「大阪地裁判決(2007年9月)を読み、裁判官がほとんど事実を理解していない。バックラッシュの怖さを全く理解していない。とにかく何故こういうことが起きたのかを解らせることがポイントだ。」と、自分の理解を深めるためにもと大きな紙を用意し、時系列その他、諸々の要素、起きたこと等を書き込んでいったという。三井さんの陳述書を基に、何度も会って話し、確認して表を埋めていく中で、次第に明らかにしていくことが出来た。

「三井さんの陳述書は素晴らしかった。辛い思いを客観的に整理することは本当に大変だったろう。」と、三井さんの強靭な精神力を称えた。

ちょっと逸れるが、労働の現場で問題が起こるときは、五つの手口があるという。浅倉さんは、三井さんの本『ノルウェーを変えた髭のノラ』に書かれていると紹介した。
「1 無視する  2 からかう  3 情報を与えない  4 どっちに転んでもダメ  5 罪をきせ恥をかかせる」

三井さんの場合も全てが揃っていたという。ノルウェーの学者ベリット・オースが提唱した説だそうだ(注)。手口を覚えておくと役に立つ。

■毎日放送・斉加ディレクターの直感と苦労
この事件をずーっと追いかけてきた毎日放送の斉加尚代ディレクターは、この事件を聞いた時、「この裁判は勝てる!」と直感したという。

企画を提出すると、「たかが一地方都市のごたごた。そもそも今は男女同権だろう」とボツにされかけたという。この感覚に彼女は危機を感じたという。彼女のこの感覚は素晴らしい。「男女差別はもうない。」という認識もまた、バックラッシュの一種なのだから。そしてメディアは女性が権利を主張する運動を取り上げたがらない。ストレートにぶつけては視聴者もついてこない。

彼女は視聴者の共感を呼ぶような伝え方をしようと言葉の言い換えをした。バックラッシュという言葉を使わず、「女性をもっと元気にするためには」といった表現を使ったり、視聴者の共感を呼ぶような伝え方に苦心したという。マスコミの報道のあり方に憤ることが多く、送り手の問題意識のズレに不信感を募らせる日々であるが、放送する側の末席に連なる一人として、このような送り手がいてくれることが嬉しかった。

■豊中市は税金で人格権侵害
今回の判決には問題点もある。バックラッシュに屈し人権を侵害したことは認めたが、原告の再雇用には言及しなかった。「雇い止め」の現実は残る。そして解決金の低さである(慰謝料150万円)。裁判費用は住友電工男女差別裁判を機に発足した「働く女性の平等への挑戦、裁判基金」の融資を受けたが、解決金では足りないと言う。

もう一つは、豊中市がこの裁判に使った費用は『税金』であるということである。今後この税金の額と使途については市民グループが市議を追及していくという。税金を使って人格権侵害をしたという事実を、豊中市民に知らせ、怒りにしていって欲しい。

■ピアノ演奏とイタリア歌曲
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さて、第二部では一転、浅倉むつ子さんのピアノ演奏と、大熊一夫氏(元朝日新聞記者、ジャーナリスト)の歌が披露された。浅倉さんはショパンを、支援者の一人であり三井さんのパートナーでもある大熊氏は、素人ながらリサイタルを開くほどの腕前(?)だとか。「もう飛ぶまいぞ この蝶々」「フニクリ・フニクラ」など、イタリア歌曲を歌い上げる姿はとても気持ちよさそうだった。浅倉さんといい大熊さんといい、一家を成して尚、このような特技があるとは。時とは等しく流れているものではないようだ。

今回の裁判は「バックラッシュ」を認め、攻撃に屈して排除した行為を「人格権侵害」で「不法行為」であると認めさせたということで、これまでにない判決であり、今後の裁判に大きな一歩を示してくれた裁判といえる。大きな一歩を残してくれた三井マリ子さんに感謝!次はどのステージで活躍を見せてくれるのだろうか。

出典:『WORKING WOMAN 男女差別をなくす愛知連絡会』 2011.7.19  第151号

(行替えなど一部、HP用に加工させていただきました=編集部)

注:「五つの抑圧テクニック」のこと。『ノルウェーを変えた髭のノラ』[三井マリ子著、明石書店] p85−p99「支配者が使う五つの手口」に詳述されている。

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