最高裁・大阪高裁が認めた「人格権の侵害」
豊中女性センター(初代)館長雇い止め裁判
(とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ館長)

坂 喜代子

■公務職場に希望と勇気を与えた
2000年9月、大阪府豊中市のとよなか男女共同参画推進センターすてっぷ館長に全国公募で選ばれ非常勤で雇用された三井マリ子さんは、2004年3月、不当に雇い止めされた。

三井さんはこれを不服として同年12月大阪地方裁判所に提訴し、一審では惜しくも敗訴したが、大阪高等裁判所に控訴し、2010年3月に逆転勝訴を勝ち取った。

公務職場の中の有期雇用という、法の狭間にある存在として、闘い難い条件の中で、裁判に立ち上がった三井さんにまずは敬意を表し、裁判の意義について考えたい。

豊中市は、恒常的な業務である館長職を全国公募で選びながら、非常勤という不安定な雇用形態にした。採用時から名目だけの館長にすることを考えていたのではないか、と、すてっぷ会館のオープンセレモニーの話を聞いて思った。

自治労が2008年6月に全国1104自治体で行った調査によると、公務職場で働く非正規職員(臨時、非常勤・嘱託)の割合は、全職員の中で27.6%、町村や政令市以外の市では3割を超え、いまや自治体の公共サービス提供の主要な担い手としてなくてはならない存在となっている。保育士や学校給食(調理人、栄養士)、学童指導員、看護師、相談員、図書館(司書)などの専門職は、長年の経験と熟練を要する仕事である。しかし、このような基幹的労働力として専門業務を担う非正規職員の法的位置づけは、いまもってあいまいなままである。

地方自治法(以下、自治法と略す)や地方公務員法(以下、地公法と略す)には、非常勤職員の定義すらない。法適用関係も入り組み、例えば、地公法3条3項3号に基づき採用されたと称される特別職非常勤職員は、地方公務員でありながら地公法が適用されない。

では、民間労働諸法が全面的に適用されるのかといえば、パート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)、労働契約法、育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)などは適用されない。

公務職場の中の有期雇用という三井さんのような立場は、まさに法の狭間のような存在なのだ。三井さんの裁判は、バックラッシュに挑む裁判でもあり、法適用関係のあいまいさをも提起した。

今後、公務職場で闘うすべのない労働者に希望と勇気を与えることになるに違いない。

■闇の中で見えた一筋の光「人格権の侵害」
「人格権とは一個人の生命、身体、精神その他の生活利益の総体。
根拠  憲法13条 === すべての国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

これまでにも人格権の侵害の先例があった。山梨県昭和町の雇い止め事件。やはり、原告の名誉を傷つける裁判で、この裁判の先例を目に留めた弁護士はすごいと思う。

さらに、三井さんの意を汲んだ浅倉むつ子さんの素晴らしい意見陳述書が決定打となって勝ち得た判決である。三井さんの人生を賭けた闘いが、働く女性の歴史を大きく一歩前に進めた。

出典:『WORKING WOMAN 男女差別をなくす愛知連絡会』 2011.7.19  第151号

(行替えなど一部、HP用に加工させていただきました=編集部)

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