館長雇い止め・バックラッシュ裁判:最高裁で人格権侵害確定 (「VOICE」第186号 2011年1月-2月) 

VOICE1-2月号

最高裁決定

 本年1月20日、最高裁は、「館長雇止め・バックラッシュ事件」について、豊中市らの上告を棄却しました。これで高裁の逆転勝訴が確定しました。
 この裁判は、60余人の中から豊中市の男女共同参画推進センターすてっぷ館長選ばれた私が、雇止めされたことを不当とし、市と財団を訴えていたものです。
 雇止めの背後には、豊中市の男女共同参画推進条例制定に反対していた市議らのバックラッシュ勢力(男女平等推進に反対する動き)による市などへの圧力がありました。市はこの条例成立を条件に三井排斥の密約を交わし、組織変更を口実に、隠蔽工作を図り、情報操作、虚偽情報の流布、悪質なデマの放置等を行った末、私を雇止めしたのです。
 訴訟に費やした7年間がやっと報われました。ようやくぐっすり眠れます。

バックラッシュ勢力

 日本は、「婚外子差別」「夫婦同一姓」を決めている古臭い民法を改正しようとしない国です。その背景には、日本会議を司令塔にした男女平等に反対する議員らの存在があります。私の雇止の背後にいた市議らと同じような勢力です。
 2009年8月、国連の女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約の実施状況について、日本政府に対して「委員会は日本国において男女間の不平等が根強く存在しているにもかかわらず、女性の人権の認識と促進に対する『バックラッシュ』が報告されていることに懸念を有する。」との通達を出しました(29項)。そして「条約第5条で要求されている女性と男性の役割や任務に関する文化の変革を推進する」よう勧告しています(30項)。
 私の裁判の相手は市と財団でしたが、このバックラッシュ勢力との闘いでもありました。

人格権侵害した豊中市幹部を断罪

 高裁判決は、2010年3月30日に下され、翌31日の朝刊全紙で報道されました(16頁に掲載)。裁判長はバックラッシュ勢力の攻撃内容を詳しく認定しました。日本の裁判では初めてのことです。「攻撃に屈した」市と財団が、「攻撃に毅然と対峙して男女平等を進めてきた」私を排除した――このことを「人格権侵害で不法行為にあたる」としたのです。判決の核心部分は次です。控訴人を三井、被控訴人を豊中市・財団と言換えました(以下同じ)。

「財団の事務局長および財団を設立し連携関係にある市の人権文化部長が、事務職にある立場あるいは中立であるべき公務員の立場を超え、三井に説明のないままに常勤館長職 体制への移行に向けて動き、三井の考えとは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者となることを承諾させたのであるが、これらの動きは控訴人を次期館長には就かせないとの明確な意図をもったものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの行為は現館長の地位にある三井の人格を侮辱したものというべきであって、三井の人格的利益を侵害するものとして不法行為を構成する。」

判決が認めたバックラッシュ攻撃

 豊中市らは、私に職場情報を知らせず、「本人は辞めることを承諾している」とデマを流して私の首を切った。こんな犯罪的行為の裏には北川悟司市議や彼の後援会長増木重夫らのバックラッシュ勢力の圧力がありました。判決からほんの一部を引用します。

(1) バックラッシュ勢力による嫌がらせ的な貸室申込みついて

「平成14年7月8日、増木重夫と名乗る者が来館し、『ジェンダーフリーの危険性を学ぶ』という主旨の勉強会をするということで『すてっぷ』の貸室の申し込みがあったが、『すてっぷ』は、会合名から『すてっぷ』の設立目的に反すると判断し、目的外使用であるとして使用を断った。しかし、同人は、豊中市女性政策課に抗議し、貸せないなら文書で回答することを求めた。その結果、豊中市は、一般使用として認めるに至り、同年8月30日、一般使用がされた。」
「市長は、増木の活動が『すてっぷ』に対する嫌がらせを目的にすることを知悉しながら、さらなる同人の不当な攻撃を回避するため、上記8月30日の貸室使用を認めたのであり、これは『すてっぷ』の貸室としては上記条例に規定の一般使用としても許されないものといえる。」
 繰り返し嫌がらせを行った増木氏は、「教育再生地方議員百人と市民の会」の事務局長で、会長は北川議員。日本会議に名を連ねる国会議員や全国の地方議会議員などが会員です。また増木氏は、在日特権を許さない市民の会(在特会)関西支部長でもありました。2009年4月には西宮市の女性小学校長を脅迫した罪で逮捕されています。

(2)その組織的な陰湿さかつ執拗さについて

「豊中市や市議会の内外で、三井や豊中市らに対する、三井の行動に反対の勢力による組織的な攻撃が行われており、その方法は、直接的に反抗することのできない被控訴人らの職員に畏怖感を与えるような行動に出たり、嫌がらせを行ったり、虚偽に満ちた情報を流布して市民を不安に陥れたりするなど陰湿かつ執拗であった……」(p34)

  ■侮辱的雇止めは違法である

 判決は、以上のようなバックラッシュを認定した上で、豊中市らの違法性について記し ています。残念ながら、私は公務職に準ずるとされ、地方公務員法により雇止め自体の違 法性は認めさせられませんでした。しかし、その雇止めに至る経緯の違法性を次のように 認めたのです。

(1) 条例と引き換えに三井を首にした動き

「財団における男女共同参画推進の象徴的存在であり、その政策の遂行に顕著な成果を上げていた三井を財団から排除するのと引換えに条例の議決を容認するとの合意を、北川議員らの勢力と交わすに至っていたものとの疑いは完全に消し去ることはできない。少なくとも、本郷部長らが桂と接触して候補者の内諾を得たのは、あってはならないところを一部勢力の動きに屈しむしろ積極的に動いた具体的行動であったということができる。」

(2) 情報を得て、協議に加わり、意見を述べるのは当然

「『すてっぷ』の組織の在り方、次期館長候補者(自己を含む)について情報を得て、協 議に積極的に加わり自らの意見を伝えることは、現館長職にある立場にあってみれば当然 にあるべき職務内容として与えられるべきであるか取るべき態様ないし行動であって、こ れをないがしろにし、さらには三井の意向を曲解して行動する豊中市ら担当者の動きがあ った場合には、三井の人格権を侵害するものといわなければならない。」

闘い続けてよかった

 一審敗訴で地獄の淵に落とされた私を奮いたたせたのは、全国からの励ましでした。それを背に私は控訴しました。難しい裁判でしたが闘って本当によかったと思います。

2010年3月31日朝日新聞
朝日新聞記事

出典:「VOICE」第186号 2011年1月-2月 より 

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