浅倉意見書感想 12

■進んでいると見られていた豊中市の仮面をはいだ浅倉意見書

伊藤とも子(女性議員をふやそう会、元芦屋市議)



 「館長雇止め・バックラッシュ裁判」は、2009年5月22日(金)、大阪高等裁判所で結審を迎えます。裁判の経過は、2004年12月に提訴し、2007年9月に一審敗訴でした。

 原告の三井マリ子さんは、それまで筆舌に尽くしがたい痛苦と不安をおして、住まいのある東京から大阪の裁判所に通い、勝訴を信じて戦ってきました。しかし敗訴という結果になりました。「10発殴られたら法で救ってもいいが、5、6発じゃないか我慢しろ、と裁判長から言われたようだ」と三井さんは涙を落とされました。裁判に不慣れな「ファイトバックの会」の大勢の支援者は、それまで元気いっぱいに支えてきましたが、この時ばかりは原告が痛ましく残念で言葉もありませんでした。

 しかし12人にものぼる常任弁護団の先生方を信じて、涙の中から控訴を決めた、三井マリ子さんを見て我々も体の中から勇気が湧き上がるのを感じました。

 高等裁判所に提訴後は50人を上回る支援者の「陳述書」が裁判長に提出され、また裁判後に毎回行われている、大阪弁護士会館での弁護士方の担当ごとの、丁寧でわかりやすい解説の一言一言に,納得し励まされながらの5年に成りました。

 控訴してからの画期的なことは、龍谷大学・脇田滋教授の「意見書」と早稲田大学大学院・浅倉むつ子教授の「意見書」が提出されたことであると考えます。

 浅倉教授の「意見書」は、1、人格権侵害と使用者の職場環境保持義務 2、バックラッシュ勢力の横暴で執拗な言動について 3、豊中市および財団による控訴人に対する態度の変化 4、「組織変更」の名の下に行われた人格権侵害 の4点に纏(まと)めてあります。その論旨は明快です。

1. 近年の労使関係と人格権の位置付けおよび救済手段のところでは、サンデン交通事件・山口地下関支判(H3)、関西電力事件(H7)また昭和町事件(H18)などの判例を引き、「再任を希望していたにもかかわらず再任されなかった嘱託職員の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となると解するのが相当である」として人格権の侵害に対して、慰謝料を認めている例を紹介しています。さらに「パワーハラスメント」「プライバシーの侵害」などをあげ、使用者は職場環境保持の義務を負っていることから、従業員の働く場の環境を悪化させた場合は、不法行為責任を問われると言及しています。

2. 全国組織のバックラッシュ勢力が、男女共同参画社会の構築に対して、なりふり構わず攻撃を仕掛けていること、それに対して地方自治体は執拗で陰湿な攻撃のターゲットになることを恐れ、自主規制をしている実態が述べられています。男女共同参画の条例制定にも影響が出ています。山口県宇部市のみならず、他市においても男女平等を謳った条例が修正を余儀なくされ、また条例策定の遅延の原因になっていることを言及した下りは、浅倉先生の強い危惧が反映した文章です。そもそも今回の事件は、北川悟司議員等の圧力が無ければ起こりえなかったのではないかと考えさせられます。浅倉教授は、「このようなバックラッシュ勢力への自治体行政の対応を事実として認識しないかぎり、本件事案の本質はみえてこない」と断じています。

3. 豊中市は人口約39万人の阪急沿線にある住宅都市で、現在の高齢化率は約20%で、そのうち女性が57%。市会議員数は36名で、女性議員は7名で19%になります。あまり問題もなく、女性センター「すてっぷ」が建ちあがった時期も関西の中では早いほうでした。初代館長を全国公募で、三井マリ子さんという女性政策で有名な方に選んだこともあり、近隣から施設見学に訪れる人も多かったと聞いています。三井さんを館長に決めたことで、女性政策に携わる女性たちから好意的な期待をよせられ、「豊中市は女性政策では進んでいる市である」と認識されていました。

 そのぶん、バックラッシュ勢力からは苦々しく思われ、攻撃の対象になったものと思われます。その異常ぶりは、毎日テレビ(MBS)のニュース特集で取り上げられました。私も含めて、テレビで報道されるまでは知る人は少なかったと思います。三井さんがバックラッシュ勢力の攻撃に毅然として頑張れば頑張るほど、同勢力の嫌がらせはひどくなり、豊中市は女性政策のパイオニアであったことを忘れて、目先の攻撃をかわすことに汲々として、いろいろな画策を弄したのではないか、と思います。

 裁判ではこのことの細かなことが証拠となるために、浅倉教授は、「意見書」で、ひとつ、ひとつ書き出しています。例えば、豊中市の幹部職員である本郷部長は、「三井館長が講演会で専業主婦は頭が悪いといった」という誹謗中傷の噂を明快に否定しなかったばかりか、三井さんが、噂を流した議長にどこで聞いたのかを会って質すこと自体も懸命に阻止しようとしました。浅倉教授は、「副議長への面会は、『噂』が根も葉もないことを本人が副議長に直接伝えることが含まれるはずであり、なぜそれほど『するべきでないこと』なのだろうか」と自問しています。その答えは、北川議員と同じ市議会会派『新政とよなか』に属する副議長の「気分を害することがあってはならない」とする豊中市の配慮と、浅倉教授は自答しています。また、誰もいない閉庁日の市役所で、午後7時から3時間も女性4名(三井控訴人を含む)が北川議員らから「恫喝、罵倒」を受けたこと、 その後の「おわび行脚」や「始末書」の強要など、三井控訴人には納得が出来ない辛いことが多くあったと感じる内容になっています。

4. その後の、「館長のクビをすげ変える」という方針の下、「組織変更」に名を借りた、豊中市と財団の控訴人排除のやり口は、不明朗で不公正な不法行為の数々で、それまで頑張っていた三井控訴人のプライドを奪い、叩きのめすに十分であったと感じます。信頼していた部下による情報の秘匿、「三井は、常勤を引き受ける意思はない」という虚偽情報の流布、パートタイム労働法の指針から主張した優先採用の拒絶、すでに選考される者が決まっていた形式的面接試験の欺瞞・・・。ここでも、浅倉教授は、市および財団は、控訴人の労働環境の悪化を無責任に放置した責任を問われるべきであると断じています。三井控訴人は自らの人間としての尊厳を傷つけられ、人格を侵害されるなど精神的苦痛をこうむり、身体にも多大な痛手をこうむるに至ったのです。

 これら4点は、豊中市および財団が三井控訴人に対して行った共同不法行為であるのみならず、事実上の使用者である豊中市が職場環境保持義務に違反したものであり、債務不履行の責任を免がれることは出来ない。拠って市と財団は控訴人が被った精神的苦痛に対する損害を賠償する責任を負う―――と浅倉教授は断じています。

 大きくて強い組織に対して、個人の出来ることには限りがあります。その時、正当性を訴えて救いを求める個人に対して、司法は長いものに巻かれることがあってはなりません。

 この浅倉教授の「意見書」は、私など素人にも第一審判決の不当性が良くわかるように解説してあります。弁護団の力強い活動と共に今回こそは「勝訴」間違いないと固く信じています。

 浅倉教授、立派で有効な「意見書」を提出していただき本当に有難うございました。

 日本も遅まきながら男女共同参画社会の構築を目指し、表向きは男女の雇用差別も改善されようとしています。それと期を同じくして、既得権益を死守したい人たちからバックラッシュが起こってきました。しかし、女性の生涯収入を適正に確保し、女性の貧困を解消することなしに少子化は止まらないのであり、安全で安心できる社会をつくるには、バックラッシュ勢力の考えとは逆の方向、つまり女性が政財界のあらゆる分野に出ていけるサポートが必要だ、とごまめの歯軋りをしている毎日です。

 以上、早稲田大学大学院法務研究科教授・浅倉むつ子氏の「大阪高等裁判所平成19年(ネ)第2853号損害賠償請求訴訟控訴事件(控訴人三井マリ子)」に関する、2008年9月11日提出された「意見書」と裁判についての所感です。

     
2009年3月22日
 

浅倉意見書は三井裁判への福音書


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