『陳述書』感想 6

■胸を打つ陳述書でした

栃久保 ゆきひ

 理路整然と、冗長にならずにポイントをおさえて、解り易く、三井さんの身に何が起こったのか、そして三井さんが何を訴えたいのか、説明されています。一つ一つの記述に、三井さんの真摯な姿勢が現れていると思います。

 執拗・猛烈なバックラッシュの動きと、それに屈していく豊中市の動き、そして三井さんを排除するための市の画策が、地道なリサーチに基づき、時系列に沿って起こった事実の一つ一つを挙げて、丁寧に述べられています。具体的事実に基づいてたたみかける理論はとても説得力があります。豊中市のやり方は非常に狡猾で陰湿、三井さんの現実に起こった出来事を一つ一つ挙げていく文面から、それが浮き彫りにされていると思います。

 III章では三井さんのすてっぷにおける精力的な活動が如実に示されています。豊中市の男女共同参画推進センター館長としてこれだけの働きをする人が他にいるでしょうか? これだけ心血を注いで働き豊中市の男女共同参画事業に貢献してきた結果、何の理由もなくクビを切られることの理不尽さがどんなに大きなものか、よく判ります。

 豊中市の言い分で最も呆れるのは、館長職を初めから「一時的な」職としか予定していなかった、とする点です。それで一体どんな「男女共同参画」事業を実現させるつもりだったのでしょう?その実効性ある事業のためには長期的・継続的・安定的な基盤がなければならないことは明らかです。また、そもそも、初めから「使い捨て」にされることが分っている館長の下で、どんな充実した「男女共同参画」事業が可能なのでしょうか?その不当性は陳述書(26頁や65頁以下等)でも丁寧に論証されています。

 特に、66頁で三井さんが応募者に対する裏切りと述べている点には全く同感。もし、豊中市の言う通りあくまで「一時的」な職としてしか設定していなかったのであれば、その旨を公募の際、勤務条件として募集要項にはっきり(「いつクビを切られるかわかりません」と)掲げるべきです。そして、そんな不安定な館長職と知っていたら、一体どれだけの人が応募したのでしょうか?

 不謹慎な言い方になるかも知れませんが、この陳述書は読み物としてもとてもドラマティック。一人の女性がどんなに卑怯な仕打ちを受け、それに翻弄され、耐えがたきを耐えながら、果敢に戦いを挑んでいくのかというこのストーリーを、フィルム化してほしいくらいです。

 京都で初めて開かれた三井さんの提訴報告会に出席し、三井さんの身に降りかかったことを本人の肉声ではっきりと知ったとき、「これぁ、やらなあかん」と心の底から思ったことを思い出します。これは三井さん一人の問題ではなく、この国に生きる女性に普遍的に襲いかかりうる問題だからです。今回この陳述書を読んで、その思いを新たにしました。

 三井さんの陳述書と被告の準備書面とを読み比べて丁寧に検討し、かつ、十全の証人尋問を行えば、どちらの言っていることが真実か自ずと判るはずです。裁判所が、三井さんのこの渾身の力をこめた陳述書を真正面から受け止めて、良識に則った審理・判断をしてくださることを切に望みます。



■上質の小説のように息をつかせませんでした

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