控訴審の結審にあたって

三井マリ子    

 2009年5月22日、いよいよ控訴審の結審を迎えます。

 2007年秋、大阪地裁の山田裁判長は、雇用継続を拒否した豊中市らに損害賠償を求めた私の訴えを棄却しました。豊中市の不正を一部認めたのですが、違法性は否定したのです。まるで「10発殴られたら救ってやってもいいが、5、6発なら我慢しろ」と言われたようでした。

 豊中市や財団は嘘に嘘を重ねて私の人生を翻弄しました。私は、その不誠実さに直面し苦しみました。体中に湿疹ができて眠れない夜が続きました。しかし第一審判決は、その苦しみを癒すどころか私を絶望の淵に追い落とすようなものでした。

 私の苦しみは、この日本社会において軽んじられてきたおびただしい数の働く女たちの苦しみであり、大勢の非常勤職の人たちの苦しみです。また、日本の津々裏々で、バックラッシュ攻撃を受けて疲弊している多くの人々の苦悩でもあります。この事を身をもって知った方々によってつづられた「陳述書」が、判決後、全国各地から私に50余通も届きました。涙なしには読めない文章が数多くありました。この裁判は私だけの裁判ではないと確信させられました。

 控訴審で、弁護団は、「被控訴人らに有利なように推測したり、証拠に基づかない判断をしたり、過超な立証責任を控訴人に課している」と裁判長を批判しました(「控訴理由書」)。さらに、脇田滋教授と浅倉むつ子教授から、「意見書」が提出されました。判決に対しての痛烈な批判です。(脇田意見書、浅倉意見書

 2000年、私は全国公募に応募した60人の中から選ばれ、豊中市の男女共同参画推進センターすてっぷ初代館長に就任しました。私は、「豊中にすてっぷあり」と言われる、その日を目指して、一生懸命に働きました。すてっぷから徒歩2、3分の地に住まいも移しました。こうした私の仕事ぶりは、市や財団から評価されこそすれ批判されたことはありませんでした。これについては判決も認めています(判決文40−43頁)。では、なぜ、館長である私が知るべき情報を徹底して秘匿されたあげく、職場から排除されなければならなかったか? 

 浅倉教授は「バックラッシュ勢力への自治体行政の対応を事実として認識しないかぎり、本件事案の本質はみえてこない」とし、「バックラッシュ勢力の横暴な体質に目を向けない表面的な把握でしかない」と判決を批判しています。「組織変更の結果、プロパー職員の増大策を淡々と実施したものではなく、そこには市と財団の『新たな意図』が反映されていたと考えざるをえない」と断じています。

 その上で、浅倉教授は、以下のように、豊中市と財団は、私の人格権を侵害し、事業者が労働者に対して負う「職場環境保持義務」に違反した、としています。

 「控訴人の排除にいたる一連の経過の中で、さまざまな人格権侵害が行われた。非常勤館長として誠実に職務を果たしてきた控訴人に対して、  

@ 財団事務局の組織変更の中から浮上した非常勤館長職から常勤館長職への切り替えに関する情報を、当初から控訴人に秘匿した
A 控訴人が常勤館長職を望んでいないという虚偽の未確認情報を、意図的に、第三者や控訴人以外の候補者にも流した
B その虚偽情報を利用しながら、控訴人以外の候補者に常勤館長職の就任を要請して、就任を応諾する者が出るまで、さらに控訴人に情報を秘匿した、
C 常勤館長職の就任を応諾する者が出たあかつきには、公平さを装うために常勤館長としての選考試験を控訴人にも受けさせたが、それはまったくの形式的な手続きにすぎず、すでに決まっていた候補者を合格させるためだけの試験であり、このことによって控訴人を欺いた、
D そして最終的には、正当な理由もなしに、控訴人を財団から排除した

 これらの行為によって、控訴人は、自らの人間としての尊厳を傷つけられ、精神的苦痛をこうむり、人格的利益を侵害された。」

 一方、豊中市と財団は、控訴審になって、「支離滅裂」「非常識きわまる」「虚構」というような言葉をちりばめて私への非難をさらに強めています。すなわち、「バックラッシュ勢力への屈服は、不確かなことを承知の上で、もち出した根拠のない理由であり、この根拠のない方便的主張を維持するため、これも根拠もない密約説まで重ねるに至ったものであり、すべて虚構である」というのが、最終的な結論のようです。このとんでもない主張に対するわれらが弁護団の最後のカウンターパンチは、5月22日、大阪高裁74号法廷で明らかにされます。ぜひ傍聴にいらしてください!

 提訴以来5年の年月が過ぎました。相手方の膨大な数の書類を読みこみ矛盾を探しだしては新たな主張を展開してきた弁護団 の皆々様、敗訴後も温かく力強く伴走してくださったたくさんの支援者の皆様、本当にありがとうございました。
                                                         (2009年5月4日記)



三井さんやすてっぷに嫌がらせを繰り返したバックラッシュ勢力の代表格の男性が4月4日逮捕されました。4月5日の各紙は、「教育再生地方議員百人と市民の会」の事務局長増木重夫と、同会の会員遠藤健太郎の両容疑者を暴力行為等処罰に関する法違反容疑で逮捕したことを報道しています。彼らは、西宮市の市立小学校を訪れ、女性校長に教育関係の団体メンバーを名乗って「西宮市教職員組合の役員を務める男性教諭を処分しろ」と要求。校長が断ると、「入学式に街宣車を出して抗議活動をする」などと脅したということです。

 

出典は「ファイトバック!」第11号 (館長雇止め・バック
ラッシュ裁判を支援する会、2009年5月10日発行)
全文は「ファイトバック!」バックナンバーのページからどうぞ

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