非常勤だって解雇制限(雇い止め)法理

      館長雇い止め・バックラッシュ裁判報告控訴審第2回

岡田夫佐子記


『ワーキング・ウーマン』

 不安定雇用に歯止めとなる判決を!男女平等は世界共通の課題。豊中市の、三井マリ子さんへの侮蔑的な態度は、日本の行政にはびこる男尊女卑思想のあらわれ。しかも舞台は男女共同参画社会を実現していくための拠点施設。三井さんは60名の中から公募で選ばれた女性センター“すてっぷ”の初代館長です。男女平等先進国である北欧の女性政策研究家としての強みをいかし、120%の力を発揮して、豊中市のみならず、全国に“すてっぷ”の名を知らしめてきました。その三井さんの雇い止めに対し「法律で保護するほどの違法性はない」とした大阪地裁判決が内包する法理上の欠陥を指摘する強力な助っ人が登場しました。
 労働法のエキスパート、龍谷大学法学部教授の脇田滋さんです。今回は、脇田教授の「意見書」の紹介を試みたいと思います。

【1】『雇用契約の期間が定められた契約について、契約更新について当事者の間に合意が存在しない限り、期間満了によって雇用契約関係は終了するという解釈は、従来の関連判例の動向に反したものであるとともに、それを踏まえた近年の労働基準法改正や労働契約法制定の意義をまったく理解していない点で根本的欠陥を有している。』

 過去の判例(最高裁・東芝柳町工場事件判決、最高裁・日立メディコ事件判決)により、正規雇用の場合の解雇に相当する理由がないのに期間満了で雇い止めすることは許されない、というものです。言い換えれば、有期雇用であっても雇い止めするためは、解雇の場合同様の理由がいる、ということです。上記2つの最高裁判決後は、下級審においても同様の判断をしてきた(福岡大和倉庫事件地裁判決、龍神タクシー事件高裁判決)との主張です。三井さんの場合、業績評価については被告側も認めるところであり、解雇に相当する理由は当然ないわけです。

【2】『労働基準法18条の2(現行労働契約法第16条)の解釈として、労働契約に期間を定めるには、以下の場合には合理的理由がある、と推測される。この合理性の立証責任は期間設定によって大きな利益を得ると考えられる使用者側に負担させるべきである。

(1)一時的・臨時的な業務の場合 (2)恒常的業務であるが、それが臨時的・季節的に増大する場合 (3)試用期間(見習い期間) (4)特別な雇用政策目的(若年雇用)の場合が考えられる。』

 したがって、恒常的な業務であるのに、それを担当する労働者との労働契約に期間を設定する使用者は、その期間設定について上記(1)〜(4)の合理的な理由があることを立証できないときには、期間を定めない労働契約を結んだと解釈することになる。とくに、短期契約を反復することは、そのこと自体が契約期間の設定に合理的理由がなかったことを意味すると考えられることになる。
 大阪地裁判決は、契約期間設定に対して解雇を制限する確立した判例やそれを確認した労働契約法(第16条)の存在についてまったく考慮をせず、逆に、契約更新の合意の存在の立証を労働者側に課している点で根本的に判例や法令の解釈を誤っている。

【3】最高裁・神戸弘陵学園事件判決の意義

 この判決では期間設定が試用期間にあたる場合があることを認めており、期間終了後に本採用されることが認められる場合があることを示している。三井裁判の場合、一定期間後に非常勤館長職を廃止して館長職を常勤化する場合には、試用期間と類似した状況があると考えて良い。そうすると、原告が事業の発展に大きく寄与してきたにもかかわらず、その雇用を継続しないことにするには、特に客観的に合理的な理由が厳格に必要とされるとともに、原告の納得を十分に得ることが必要不可欠であったと考えられる。

【4】常勤館長への優先転換への配慮義務

 2007年改正された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下パートタイム労働法と略称)」では、パートタイマーへの通常労働者への転換を推進する措置を講ずる事業主の法的義務が定められた。改正「パートタイム労働法」は、本件当時には適用されていなかったが、本件当時,すでに、改正前のパートタイム労働法の下で、厚生労働省から「パートタイム労働指針」が出されており、改正後のパートタイム労働法と同趣旨のことが定められている。

 被告法人は、男女共同参画事業を率先して推進する団体であり、多くの女性が非正規雇用としてのパートタイムで就労している状況の改善の必要性を社会的に啓蒙・普及する立場にあり、パートタイム労働者の通常の労働者への転換を促進することを事業目的の一つとしている。その点で、パートタイム労働法や労働指針について、消極的な主張をすることが許される立場にはない。

 そうすると、本件の常勤館長への組織変更に際し、被告は、非常勤館長としてとくに問題なく就労してきた原告に対し、一般の事業主よりも格段に強く配慮する義務を負っていたと考えられる。少なくとも、現行パートタイム労働法第12条の趣旨に基づけば、被告は、原告に対して常勤館長に転換するための措置、すなわち、募集や配置について周知と機会の付与を公正に行うことが義務づけられていたことになる。本件では、被告が、こうした義務を尽くしたとは考えられない。

 ところが、地裁判決は、この公正な機会を付与する被告の義務をまったく無視しており、複数選考の場合には選考側により広い裁量が認められるとするなど、関連法令についての無理解に基づく、明らかに誤った判断をしていると言わざるを得ない。

以上が脇田教授の大阪地裁判決への主だった批判点です。

 裁判官が法律に最も詳しいと思うのはどうやら大間違いのようです。脇田理論は、ILO条約(158号および166号)や、EU諸国(ドイツ、イタリア、フランスなど)に共通した考え方にもとづいており、今後、日本でも広く受け入れられていく必要があるものと思われます。実際に、『脇田教授が書いたのでは?』と思われる判決文が、大阪高等裁判所で最近、出ました。「松下プラズマディスプレイ社偽装請負事件」の判決文です。脇田理論と同じ解釈、考え方によって、有期雇用の雇い止めが無効とされています。原告の吉岡さんという方がブログに判決文を掲載されています。かなり難儀な文ですが、関心がありましたら読んでみてください。

高裁は裁判官としての実力が試される場である、と聞きます。その分、実力派裁判官も多いはず。おおいに期待するところです。

 秋葉原での無差別殺傷事件を受けて、舛添厚労大臣が「大きく政策を転換しないといけない時期にきている。中略。安心して希望を持って働ける社会にかじをきる必要がある」と発言したかと思っていると、数日後には早速、来年度通常国会に提出予定だった、労働者派遣法の改正案を、今秋の改正へと前倒しする考えを示した。さすがの舛添氏!とちょっと感心。日雇い派遣の原則禁止の方向で改正案はまとまりつつある様子。こうした不安定雇用への世間の厳しい目は、裁判所にも届かぬはずがない、と思います。三井裁判にも追い風となってくれるもの、と思います。脇田理論が採用されますよう、皆様、名古屋からつよーい念力を送ってください。時間とお金に余裕のあるかたは、ぜひ大阪高裁へ!公判後の”弁護士解説つき交流会“が楽しく、勉強になります。素敵な人物に、毎回会えます。

先回は、脇田教授がゲストでした。気どらない、庶民的風貌のひょうひょうとした語り口で、中身は限りなく労働者に優しい法理論を解説していただきました。日本の厳しい現状を目の当たりに、目からうろこの心地よさです。日本にもこんな考え方をする学者がいたのか、と情報不足、勉強不足の岡田は感激して、いっぺんに脇田ファンとなって帰りました。

次回公判までには、同一価値労働・同一賃金の理論的支柱のお一人である浅倉むつ子教授の“人格権侵害”を立証する意見書が提出される予定です。こちらも鋭い刃となって、裁判官の胸を打つことが期待されます。

 一審敗訴後の高裁は裁判の流れとして、とても大事な局面です。 WWの皆様の応援を引き続き、よろしくお願いいたします。原告、支援者、弁護士、学者と、それぞれの立場で、力を尽くし、勝利判決を呼び込みたい、と思います。

 次回公判は、9月18日(木) 午前11時から 大阪高裁74号法廷です。
 大阪高裁へは、地下鉄御堂筋線 淀屋橋から徒歩7,8分です。

以上、大変遅くなりましたが控訴審第2回公判傍聴報告と、第3回公判へのご案内です。

8月23・24日の合宿で、ワーキングウーマンが、館長雇い止め・バックラッシュ裁判の支援団体となることが決まりました。具体的な支援策として、裁判傍聴のための交通費(近鉄往復分)の負担をしていただくことになり、大変ありがたく思っています。だた、人の確保は保証の限りにあらず、会員の中で行く人がいれば、との前提です。 社会見学と思って行ってくださるかたがあれば大変うれしいです。傍聴人が50人であれば50分の1、100人であれば100分の1の存在価値を持つ行動となります。お時間の許す方、お力を貸してください。キャリアバンキングメンバーの方には、岡田(ふ)から5000フェミを献上いたします。ご連絡お待ちします。 岡田(ふ)まで

出典:『ワーキング・ウーマン:男女差別をなくす愛知連絡会』     
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ワ−キング・ウ−マン

自分が少し強くなった気がしました 

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